第164話、古代文明研究家と魔術師


「よう、旦那! こっちはたっぷり船を見させてもらったぞ!」


 ライヤーはご機嫌だった。


 銀の翼商会の仲間たちは皆お疲れだったから、顔合わせの紹介は後にした。飛空艇を調べていたライヤーとフィーアのもとに、ソウヤとジンが足を運んだ。


「結論から言えば、部品さえあれば修理は可能だ!」


 ライヤーは断言する。動かす上で構造上わからないものはなかったという。


「部品さえあればか……」


 ソウヤが飛空艇を見上げれば、ライヤーは口元を笑みの形に歪めた。


「まあ、ある程度は自作するしかねえな。そもそも、飛空艇の部品なんて、そこらで買えるもんでもねえ」


 飛空艇は、王国か上級貴族が所有する程度。客層が限られている分、専門の工房での受注生産が主な調達方法だろう。


 あるいは古代天空人遺産から飛空艇を見つけてパーツを取るとか。……それでも劣化していないものは滅多にないだろうから、作る技術があるなら、自作したほうが早いかもしれない。


「爺さん、どう思う?」


 ソウヤはジンに話を振る。老魔術師は顎髭を撫でた。


「どういう物が必要か分かれば、すべてとは言わないが作れるだろう。ちなみに、リストはあるかね?」

「ここにあるぜ。……ジイさん、機械に詳しいのかよ?」


 ライヤーが必要部品を書き留めたロールを出した。それを受け取り、ジンは片方の眉を持ち上げた。


「専門家には負けるがね。ただ、部品の調達には役立てると思うよ」

「そいつは頼もしいぜ。それならこっちは修理に専念できるかもな」


 今からワクワクしているのがわかるライヤー。ソウヤは古代文明研究家の彼に告げた。


「で、今後の話なんだが――」


 遺跡の地下で見つかったゴーレム工場の件を、バッサンの町のギルドに報告する。個人で採掘権を買った場所以外でのお宝ありました報告は、一応義務となっていると聞いている。


「ライヤー、あんたにも遺跡を見てもらったほうがいい。ギルドに説明するにしても、専門家の意見があったほうがいいだろう」


 別世界から来ているソウヤは、この世界の過去の文明などの知識はさっぱりなのだ。


「へえ、旦那。また未知の遺跡を見つけたのかよ! あんた凄えな」

「ちなみに、そこで見つけたゴーレムのコアがあってな――」


 回収したコアを見せる。ライヤーは、じっとそれを観察した。


「どれどれ――んー、二、三千年前のマカリー文明関係のものに見えるな」

「コアでそんなことが分かるのか?」

「よく見てみな。ここに文字が刻まれているだろう――」


 ライヤーは解説した。さすが専門家。目の付け所が違う。一度、彼にゴーレム工場を見てもらうことが決まった。


 一方、ジンは、回収した案山子ゴーレムをいじってみると言う。


「お手伝いロボットくらいにはなるかもしれない」


 老魔術師が言えば、ライヤーは口笛を吹いた。


「おい、ジイさん、マジかよ。古代文明時代のゴーレムを動かそうってのか?」

「ゴーレムはそもそも魔術の領分だ。当時を再現しようというわけじゃない。ただ動かすようにするだけだ」

「興味ある。おれも見ていいかい?」

「もちろんだとも」


 話が合いそうで何よりだ。ソウヤは頷きつつ、話を戻した。


「飛空艇の部品のことだが、ドワーフの町に寄るつもりだ。機械整備士の実家を訪ねるつもりだったんだが、うまくすれば、いくつか部品の問題は解決するかもしれない」


 もっとも、今も工房があれば、の話ではあるが。ロッシュヴァーグから紹介状をもらったから、もし工房が続いているようなら相手にされないということはないだろう。


 部品の購入資金については、遺跡からの財宝を充てればいいだろう。今なら、多少の大きな買い物ができる余裕があるのだから。



  ・  ・  ・



 今後も末永いお付き合いになるだろう、新たな仲間であるライヤーとフィーアを他の仲間たちに引き合わせた。


 皆、ゴーレム工場で疲れてはいたが、それでも腹は減るという健康優良児ばかりで、晩餐の用意をしながらそれぞれ紹介した。


 最古参のミスト、腕利き冒険者のガル、本職魔術師に匹敵する見習い魔術師ソフィア――セイジとジンはすでに紹介済である。


 飛空艇の話をして、古代文明関係の専門家であるとライヤーのことを説明したら、ミストをはじめ、概ね歓迎の方向で受け入れられた。


 12号遺跡で財宝という名の臨時収入を得たと報告したら、ソフィアがビックリしていた。


 晩餐は大仕事の後のステーキ――これはミストさんの要望なので仕方ない――をメインに、丼モノや魚、サラダなどを用意して、歓迎会込みの大盤振る舞い。


「なんだこれ、メッチャうまい!」


 初体験の味にライヤーが歓喜した。ソウヤにすれば予想通りなので、苦笑するのみだ。


「この黒っぽいソースが初めは気になったが、いざ口にしたら、うま過ぎる!」

「ふふん、どうよ、ショーユベースの特製タレは?」


 ミストがやたらと胸を張ってライヤーを見た。言うまでもないかもしれないが、タレ作りにミストは一切関わっていない。


「ショーユって言うのか! うめえな、こいつは!」


 どうやら醤油について、ライヤーはまったく知らないようだった。そういえば銀の翼商会と聞いても、特に反応しなかったから、あまり世間の風評とか気にしない性質なのかもしれない。


 ミストがライヤーに醤油談義をしている間、フィーアは、ソフィアとセイジに絡まれていた。


 正確には積極的に絡んでいるのはソフィアで、セイジは双方の間で、わからない言い回しの通訳的な立場のようだ。


 ――そういや、フィーアって機械人形だって聞いてたが、普通にメシ食うんだな……。


 ソウヤは不思議なものを見る目になる。


 古代文明の機械人形とやらは、相当進んだ技術をお持ちだったようだ。空を飛んだり、腕を伸ばすこともできるというメカメカしさに加えて、人間と同じものを食することができるとは。


 ――食ったものは消化されて、エネルギーにでも変換されているんだろうか……?


 こういうのは、フィーア本人に聞くべきか、それともライヤーに聞いたほうがいいのか、ソウヤは考えてしまう。


 別に遠慮するような問題でもない気もするが、まだ会ったばかりでお互いにわからないことばかりだ。もう少しお互いのことを知ってからでもいいだろう。

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