第163話、ゴーレム生産工場


「……何の音だ?」


 ソウヤは室内に響いた重い音に顔を上げた。


 番人と思われる岩ゴーレムを撃破し、さあ調べようという時だった。ジンは呟いた。


「嫌な予感がしてきた」


 警戒するが、しばらくは何も起きなかった。ソウヤはミストと顔を見合わせるが、彼女も何も感知しなかったようで首を振った。拍子抜けである。


 ゴーレム製造用の部品やゴーレムのコアも大量に回収。ジンは、ソフィアに『人形作りは興味あるかね?』とゴーレム製作の話題を振った。


「やりたい!」


 ソフィアは新しい魔法に興味津々で志願した。聞いていたミストがソウヤに言った。


「これだけ部品があるんだし、王都の魔法学校に売りつけてやれば?」

「ゴーレム製作の教材って、売れるかもな」


 すでに、ここに来る前にあった案山子ゴーレムの部品は入手済み。これらをジンが何かに使おうとしていたようだが、ゴーレムが使えるなら、銀の翼商会のほうでも利用できるかもしれない。


「財宝はなかったけど」


 ミストは総括した。


「話を聞く限りは、収穫はあったみたいね」

「ああ、金のなる木だな」


 工場らしいが、その設備は使えないようだった。他にめぼしいものもないので、さて帰ろうと部屋を出ようとした時、出入り口を警戒していたガルが振り返った。


「まずい、ゴーレムが来る!」


 見れば、行きの時に見かけた石像が動いて、しかも大挙して押し寄せてくるではないか!


 あの場には数百体の石像があって、それがすべてゴーレムだったとすると――


「完全に退路が断たれてるじゃないか!」


 ソウヤは唸る。ミストが再び戦闘態勢に入るが、通路を埋めるように迫るゴーレムの群れはさすがに厄介だ。


「扉を閉めろ!」


 ゴーレムの図体からして、扉を破壊+壁を壊さない限り、出入り口を通過できるのはせいぜい一体のみ。一度に複数を相手をしないだけ、いい案が浮かぶまでの時間は稼げるだろう。


「こりゃ参った……」


 一息をつくソウヤ。セイジは心なしか青い顔になる。


「まさか、あの石像が全部ゴーレムだったなんて」

「まあ、そんな気はしていたがね」


 まだ動くとは思っていなかったが。さっきの重い音が、石像ゴーレムの起動の合図だったのかもしれない。


「さて、どうするね?」


 ジンが問うた。ミストは手を挙げた。


「強行突破?」

「そいつは最終手段だな」


 ソウヤは考える。あのゴーレムがひしめいている通路を抜けるとして、いったいどれだけの敵と戦闘をしなくてはいけないのか。


 多勢に無勢。勇者時代に魔族の軍勢を敵中突破したことがあるが、かなりギリギリであまりやりたいとは思えない作戦だった。


「ちまちま数を減らす?」


 ソフィアが杖を振った。


「密集しているなら、広範囲魔法でかなり巻き込めるわ」

「相手が装甲の厚いゴーレムであることを考えると、魔力がもたないだろうな」


 ジンが分析する。老魔術師の言うとおり、魔法を使うと魔力を消耗するから、まともにやっていたら先にへばるのはこちらだろう。


 ――逃げ道は……ないんだろうな。


 ゴーレムが押し寄せる通路が唯一の道だ。


 一瞬、ソウヤは、アイテムボックスの共有スペースを利用して、遠くは港町バロールのタルボットのところに移動できるのでは、と考えた。物はともかく、人では試したことがないから、実際にできるかはわからないが……。


 ――いや、しかし、この動き出したゴーレムを放っておいていいのか……?


 もしこの動き出したゴーレムの大群が、表に出るなんてことになったら、バッサンの町が大混乱に陥る可能性もある。……それは許容できない。


「ソウヤ?」


 その目が何かを決めたと察したミストが首を捻った。


「結局のところ、オレは力押しってのが性に合ってるんだな」


 自分らで起こしたかもしれない不始末だ。自分たちでケリをつけてやろう。



  ・  ・  ・



 ということで、銀の翼商会は、群がるゴーレムを片っ端から『全部』叩き潰した。


 もちろん、数が数である。一度に戦ってどうにかなるものではない。


 であるならばどうしたか? 簡単だ。複数回に分けて、ゴーレムの数を減らしていったのである。


 部屋から少し出ては、ある程度撃破して退却。休憩を繰り返し、効率のいい叩き方を試行錯誤しつつ、攻撃を繰り返した。


 ソウヤとミストが一撃一殺でゴーレムをスクラップにし、ジンとソフィアが広範囲魔法で十数体をまとめて氷づけにしたり、吹き飛ばしたりして数を減らす。


 セイジでさえ、ガルからゴーレムなどの装甲の厚い敵の弱点でもある関節の壊し方を学び、単独で倒せるようになった。


 とんだ実戦型練習となった。いや、実際に実戦なのだが。


 ソフィアも広範囲魔法の使い方やその技術が向上し、その熟達ぶりも実戦ならではの早さと言えた。


 なおジンは、ゴーレムの外装を吹き飛ばし、コアだけ引っ張り出す魔法を使ってみせて、ソフィアの新魔法習得の場を提供していた。


 何だかゲームでいうところの経験値稼ぎみたいなことになっているが、数字ではなく、実際の戦闘経験を積めたのは大きな収穫だった。


「はぁぁ、結構疲れたわ!」


 さすがのミストも、疲労を隠せないようだった。ジンが手に入れたゴーレムコアをソウヤに渡しながら顔を向けた。


「しかし、意味はあった」


 経験を得たこともだが、ゴーレムが遺跡の外に出るような事態にならなくてよかった。今のところ見つけてないが、把握していない地上へのルートがあれば大変なことになっていたのは想像に難くない。


「少なくとも、わたしたちって、ゴーレム退治のプロを名乗れるんじゃないかしら」


 ヘトヘトになりながらもソフィアが気丈にも言った。やりきった感が顔に出ている。ガルは涼しい顔だが、セイジは床に寝転んでいる。怪我はないので、体力を使い果たしたのだろう。


「お疲れさま」


 ソウヤも一息をつく。


 戦利品の回収作業が住んだら、皆でそのままアイテムボックスハウスに直行、休息をとるのだった。

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