第152話、遺跡を巡ろう
ソウヤたちはバッサンの町の観光をする。遺跡が多いと聞いているので、商売のタネにならないか近場を回ってみた。
姫君から、クレイマンの遺跡の捜索を受けたが、その手掛かりがあったなら儲けものである。そう簡単ではないのはわかっているが、こういうのも経験だ。
とはいえ、普通の遺跡はモンスターが出にくいためか、どこぞの組織が調査・発掘を独占していたりする。
銀の翼商会である、と「商人」だと言ったら、遠巻きに見学させてもらえたが、深く立ち入ったりはできなかった。
この手の場を独占している連中は、遺跡から歴史を探る学者先生ではなく、一攫千金を目指す財宝目当てなのがほとんどである。
……そうでなければ、場所を独占したりはしない。
つまりは、よそ者を警戒しているのだ。
「歴史的な資料ってのは、あんま興味ないんだろうな」
ソウヤがぼやけば、ジンは小さく唸った。
「我々の世界でも、遺跡の調査に現地の人間を雇ったが、重要なところは立ち入らせないと聞いたことがあるな。お宝が出ると、懐に入れられて持ち去られてしまうのだそうな」
「現地人にとっちゃ、金だもんな」
独占されない遺跡は、大抵モンスターが出没する。そのたびに調査が中断されることも珍しくなく、またモンスター鎮圧に手間もかかるので、早々に独占されたりはしないらしい。
出てくるモンスターが高レベルだった場合、場所だけ確保しても発掘ができず、赤字になってしまうのだ。
それでなくても、遺跡発掘は、必ずしもお宝が出るわけではない。金目当ての発掘は、それ自体が博打である。
「ねえ、ソウヤ」
ミストが欠伸をしながら言った。
「モンスターのいる遺跡とやらに行くなら、早く行きましょうよ。ワタシ、退屈だわ」
――ドラゴンは人類の歴史は興味なしか。
苦笑するソウヤ。しかし退屈そうなのはミストだけではなく、ソフィアも同様だった。セイジは遺跡の発掘の様子をしげしげと眺めていたが、ガルはそれよりも周辺警戒に気を遣っているようだった。
「オレはもう少し、発掘現場を見ていきたいんだが……。じゃ、二手に分かれるか。俺とセイジが残るから、ミストたちは先にモンスターの出る遺跡のほうに行ってくれ」
ソウヤは提案すると、相当暇を持て余していたか、ミストが目を輝かせた。
「いいわ。あなたが来るまでにモンスターは全部ワタシたちで蹴散らしておくわ」
「……遺跡は壊すなよ」
やり過ぎても困る。
「爺さん、悪いが監督してくれ。……こいつらが調子に乗ったら――」
「やれやれ。若い者の手綱を締めることができるか自信はないがね。引き受けた」
老魔術師が了承すれば、聞いていたソフィアが頬を膨らませた。
「わたし、遺跡を壊したりしないわよ!」
「どうかな。お前、最近魔法が使えるようになって、加減がわかんねえじゃねえの?」
ソウヤは指摘する。盗賊の襲撃で使った広範囲の魔法。あれを遺跡の中などで使ったらと思うと、背筋が凍るのだが。
「失礼ね! ちゃんと制御するわよ」
「期待しておくよ。……爺さん、マジ頼むわ。せっかく良好なギルドとの関係を壊したくねえからな」
そこで分かれ、ソウヤはセイジと共に次の遺跡、その発掘現場へ。
「……」
「どうした、セイジ。辛気臭い顔をして」
相方が、心なしか元気がないので、ソウヤは肩を叩いた。
「お前も向こうがよかったか?」
「え……? いや、別に」
「何だよ、ソフィアのところがいいなら、そう言えよ」
「な、なんで、そこでソフィアが出てくるんです!?」
セイジがビックリした。――何を今さら。
「なんでって、お前、あいつのことが好きなんじゃねーの?」
「すすす、好きだとか、何を言ってるんですか!」
あからさまに真っ赤なそのお顔。
――若いなー。
異性が気になってしょうがないお年頃だろう。とはいえ、あまりからかうのも悪い。ソウヤはニコニコしながら、それ以上は追求しなかった。
・ ・ ・
その遺跡は、地下に埋まっていた。掘り起こされた土砂から出てきたのは石造りの建物。どこか古代ギリシャのパルテノン神殿を思わす石柱があって、そこそこ地表に姿が見えていた。
町からは、12号遺跡とナンバーがつけられている。建物の紋様などで天空人のものでは、と噂され、バルドラ商会がここの採掘権を買ったらしい。
ただ、冒険者ギルドと併設された商業ギルドの話では、特に希少価値の高い品は出てきていないとかで、ハズレ遺跡ではと囁かれている。
遺跡発掘はロマンだが、同時に博打である。博打、博打、博打!
「……ん?」
行けるところまで近づこうとしていたソウヤとセイジは、何やら揉めている現場に気づいた。
「てめぇの言い訳は聞き飽きた!」
野太い怒号が響く。声の主は、ずいぶんと腹の出ている大男。身なりのよさからして商人だろうか。周りにいる武装した者が十人ほどいて、おそらく護衛だろう。
恰幅のよい商人の怒号の先には、灰色髪のおっさんと、青い髪をショートカットにした少女がいた。
――なんつー、格好だ。
少女の服装が、ここまで見てきたものとまるで違うので、注目してしまう。ジャケットを上着に、その下に全身タイツのようなインナースーツを身につけている。……ひとりだけ、この時代の人ではないように見える。
それはそれとして、話の中心は、恰幅のよい商人とおっさんのほうだ。灰色髪のおっさんは三十代といったところか。角張った顎に、無精ひげ。目つきはするどく、マントにそこそこお高そうな服と、冒険者のようなニオイを感じさせた。
「なあ、レイグ、もうちょっとなんだよ! もうちょっとで、お宝が出てくるんだ!」
「くどい! それで何度目だ!? もう耳にたこなんだよ!」
レイグというのは商人の名前らしい。そのレイグはびしりと男を指さした。
「てめぇが必ず儲かるって言って、わざわざ採掘権を買った。にも関わらず、出てくるものはガラクタばかり! 金になるものが出てこないばかりか、赤字だぞ赤字! わかってんのか!」
「遺跡発掘ってのは、当たり外れがあるもんなんだ」
男が言い訳がましく言えば、レイグの額に青筋が浮かんだ。
「必ずあるって豪語していたのはてめえだろうが! 嘘だったのか、この野郎!」
「も、もちろん、嘘じゃねえ。……ちゃんと、しっかり財宝はあるはずさぁ。……なあフィーア?」
男は、青髪の少女に話を振ったが、フィーアと呼ばれた彼女は、つんと顔を逸らした。
「そうなのですか?」
淡々と機械のような返事だった。男は頭を抱える。
「いや、天空人の財宝はあるんだってば! 信じてくれよぉ!」
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