第123話、思わぬ需要
ソフィアは言った。
「わたしが呪いに打ち勝って魔法を使えるようになれば、呪いをかけた奴はビックリするでしょうね」
――いきなり何だ?
「わたし、決めたわ。魔法を使えるようになる。それで、呪いをかけた奴を突き止めて、ぶん殴ってやるの!」
「犯人捕まえて、呪いの解き方を探るほうが早いと思うんだが……」
犯人はソフィアの身内の可能性が高いし、家に帰って調べたら突き止められると思う。ついソウヤが口に出せば、ソフィアはツンとそっぽを向いた。
「嫌よ。魔法が使えないまま、犯人に呪いの解き方を聞くって。わたしが見返してやるところがないじゃない!」
つまり、犯人に向かって『お前の目論見どおりにはいかなかった。ざまぁっ!!』とドヤ顔で言いたいわけだ。
これもひとつの復讐というやつか。
――本人がそうしたいって言うなら、別にいいんだけどな。
基本的に、決めるのは自分自身である。人が回りくどい、もっとストレートに解決できるかも、と言ったところで当人には当人の考えがあるのだ。
そもそも、今回の呪い、家族が怪しいとなれば、もしかしたら何かしら深い理由があるかもしれない。
――でもこいつは修羅の道だぜ。
何せ、今のところ、呪いの解除の方法はわからない。家に戻って調べるより、時間がかかるだろうことは間違いない。
さて、エアル魔法学校である。シートスは、先日預けた魔法カードに関してのレポートを約束した通りに用意していた。
『一般的な魔法に比べて、詠唱時間がほぼなく、素早く使用できる点は素晴らしい。これは発動する魔法が予め決まっているため、起動させるだけで魔法になるためである。
それは長所であるが、同時に、決められた魔法が発動するため、威力や効果範囲の調整がきかないという短所に繋がる。その点は、魔法武器や魔道具と変わらないため、使い捨てである点を除けば、運用にさほど困らないと推測される。
魔法が使えない、あるいは不得意な者がこの魔法カードを使用すれば、持ち込むカードの量によっては、一般の魔術師に勝るとも劣らない活躍が見込める。
所詮、魔力を使って魔法を使うか、カードを使って魔法を使うかの違いでしかなく、どちらか一方が決定的に有利だったり、あるいは不利だったりすることはない――』
書かれたレポートを読むソウヤをよそに、シートスは口を開いた。
「魔法カードの効果は一定なので、使用者の能力は関係ない点は長所ですね。ぶっちゃけ、魔法使いでなくてもいいですし。ただし、高レベルの魔術師の使うような魔法に劣るため、威力の強弱でいえば、完全に魔術師を凌駕とまではいきませんね」
――別に、そんなスーパー魔術師を超えようとしていないからいいよ、それは。
ソウヤは思うが、シートスはそこで表情を引き締めた。
「ただ、威力の問題がクリアされたら、国や貴族らは自分の軍隊にこぞって魔法カードを導入するでしょう。その場合、これまで雇われていた魔術師たちは、戦場ではお払い箱になる……」
想像してみてください、とシートス。
「魔術師と同等の攻撃魔法を、騎士や一般兵が使えるとしたら? わざわざ高いお金を出して魔術師を戦場に引っ張り出さなくも済むわけです。気まぐれで、秘密主義で、高慢な態度をとる魔術師よりも、食事も待遇も要求しないカード、どちらが使いやすいか」
――断然、後者だな。
魔術師を雇うお金が、実際にいくらかは知らない。だが諸経費を考えたら、魔法カードはカードの購入費しかかからないので、結果として安上がりになるかもしれない。
軍隊においてかかるお金と言うのは、実は兵器よりも人件費のほうが高い……などと聞いたことがあるソウヤである。もっとも現代と、この異世界が同じであると考えるのは早計であるが。
誰もが使える魔法カードが戦場を変える。
魔法がうまく使えないソフィアのために考え、同様の悩みを持つ魔術師や冒険者たちのために考えてきた魔法カード。
だがそれは、一般兵にも簡易に使える兵器としての未来が想像された。シートスの予測は、おそらく現実のものとなる!
これは商品化に、より慎重にならないといけない、とソウヤは思った。
実際、ウェヌスのアジトを攻撃した時に、ソフィアが魔法カードを使用したが、半人前以下の彼女が一流魔術師並みの戦果を上げた。
一般に流通させれば同じことが起きる。
――これは、権力者たちが欲しがる類いの力だ……。
ソウヤは愕然とした。自分たちが考えていた商品が、戦場に投入され、大破壊兵器へと進化していく。
威力を抑えたものを出しても、人は物をより便利に、強く改造することができる生き物だ。手を離れたところで、独自に強化されていくことになるだろう。
「とはいえ、結局使い手次第なんですよね」
シートスは、のんびりした口調で言った。
「剣や槍、弓だって武器ですし。魔法カードも戦術レベルの武器にはなるでしょうけど、今だって魔法武器や魔道具が同じことをしていますし」
――だがそういう魔法武器は、そもそも数が少ない。その気になれば大量生産もできる魔法カードと同列に並べていいのか?
「僕個人としては、もっと他のことに魔法カードを使いたいんですよね。ソウヤさん、この魔法カード、どうやって作るのですか?」
――おっとさりげなく、作り方を聞いてきたぞ。
「オレもよくは知らないんですよ。何か魔力をカードの形にするって聞いたんですがね」
企業秘密って形にすべきなんだろうが、それだとしつこく問われる可能性がある。だから、知らないとあくまで協力的な態度をとって誤魔化す。
「魔力を形にする――ふむふむ」
「すいませんね。オレは魔法のことは素人なんで、これ以上はわからないですなー」
製作者が魔術師特有の秘密主義を発揮している、という風を装って、これ以上はお断りさせてもらう。
シートスも同じ魔術師なので、魔術師の秘密主義には理解を示した。
「魔法カードが自分で作れれば、自分用にカスタマイズできそうなんですけどねぇ……」
名残惜しさを滲ませるシートス。ソウヤとしては、この件をミストらとよく話し合いたいので、それより先のことについては保留にした。
その後、学校から購入希望のあった、ヒュドラ素材、ベヒーモス素材を数点販売した。
あとミスリル鉱石を欲しがっていたので、余剰があるからと、少々売った。
希少な品ゆえ、お値段も高額である。ちょっとしたお金持ちと言っていいほどの売り上げを手に入れた。
・ ・ ・
学校からの帰り、ソフィアがポツリと聞いた。
「魔法カード、どうするの?」
「商品化したら、思ったより大事になりそうだなぁ」
ソウヤは頭の後ろで腕を組む。空を見上げたところで、考えが浮かぶものでもない。
「ま、個人で使う分には、これまで通りだ。だが売るかどうかについては、ミストとよく話すつもりだ」
魔法カードを作っているのは彼女である。このドラゴンの考え方ひとつで左右される代物だから、彼女にお伺いを立てるのは間違っていない。
「個人の話で言えば、やっぱあの威力は切り札になるよな」
大集団と戦う時とか、ドラゴンブレス並みの威力の魔法が、魔術師でなくても使えたら。
戦場で、なんて言われたが、たとえば三カ月前のダンジョン・スタンピードの時に使えたら、かなり楽だったのではないかと思うのだ。
「使い方次第、って言うけどなぁ……」
釈然としないものの、ソウヤとソフィアはアイテムボックスハウスへと帰宅した。
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