第63話、銀の翼商会、東へ
エイブルの町を襲ったダンジョンスタンピードから、三カ月ほどが経過した。
ソウヤは愛用の浮遊バイク『コメット号』に乗っていた。後ろに繋げた車輪付き荷台を牽くいつもの移動スタイルだ。
荷台にはミストとセイジがいて、のんびり穏やかな天気の下、銀の翼商会は今日も行く。
王都から東の街道を進んでいると、脇にひとりの男性が立っていて、手を振っていた。
「おーい、ソウヤー!」
「やあ、カルファさん!」
行商のカルファ氏の前でコメット号を停めるソウヤ。魔王討伐後に初めて王都へ行った際に知り合った、先輩行商である。付き合い自体は短いが、商売の助言をもらった好意的な人物だ。
「ソウヤ、東に行くんなら途中まで乗せていってくれないか?」
「乗んなよ。……一人なのかい、カルファさん?」
「まあ、そういうこった」
荷台のほうに乗るカルファ。そこにいるミストたちにご挨拶。
「ソウヤ、景気はどうだい?」
「まあ、ボチボチだな」
お約束的な返し。しかしカルファはニヤリとする。
「そうかい? 銀の翼商会とはいやぁ、最近色んなところで話を聞くぞ」
「へぇ、オレらも有名になったもんだ」
浮遊バイクをゆっくり走らせながら、ソウヤは笑った。
ヒュドラ退治にダンジョンスタンピード。
当初、その鎮圧に大きく貢献したソウヤたちの活躍は、戦果発表においては控えめに告げられた。
主な活躍は、入り口を守った冒険者たちであり、ソウヤたちはアシスト――のはずだったが、やはりモンスターを倒しまくったことは他の冒険者たちも気づき、それが噂となって流れたのだ。
ヒュドラ討伐の件も含めて『モンスターを蹴散らす凄腕の商人がいる』、『銀の翼商会というらしい』などなど。
それはエイブルの町以外にも伝わり、結果的にソウヤたちはちょっとした有名人となった。今では町や村に行くと、銀の翼商会と名乗るだけで好意的に商売ができた。初見で怖がられた浮遊バイクも、よい目印として機能している。
「やっぱ目立つよ、そのバイクってやつは」
カルファも同意した。馬車などとはまるで違う乗り物である。
「しかも速いしなぁ」
ともあれ『勇者マニアのヒュドラ殺し』銀の翼商会は、王国でも着々とその名を知られつつある。
スタンピードでの活躍を宣伝に利用しようとしたら、するまでもなかった。
冒険者パーティー『白銀の翼』こと、ソウヤたち『銀の翼商会』の行商ライフは順調そのものだった。
「そういや、知ってるかい、ソウヤ。最近、この街道に獣人が出たってよ」
「獣人?」
獣の特徴をもった人型種族だ。元の世界だと、狼男とか、そういうのが有名だ。こちらでは獣人と言っても色々種類があって、平和的な種族もあれば、魔族に加えられるような敵対的な種族もいる。
田舎では、取引もあったりするが、王都や大規模な人間な生活圏にはあまり姿を見せない。変に差別意識を持っている人間がいて、寄り付かないというのが正解か。
「獣人ねぇ……出たって言うと何かあんまいい印象はないな」
「聞いた話じゃ、人を襲うとかで討伐がどうのって話だ」
カルファが言えば、ミストが口を開く。
「で、その獣人の種族は? わかっているの?」
「狼頭らしい。ウェアウルフだろう。まあ、そんなのが街道をうろついていたら、普通はビビるよな!」
ハッハッハ、と笑うカルファ。ミストは片方の眉を吊り上げた。
「その割には、あなたひとりよね? 護衛はつけなかったの?」
「いつでも手隙の冒険者がつかまるとも限らんさ。君のいう通り、こっちは非力でひとりだから、護衛は誰だっていいわけじゃないしな」
雇った護衛が、実は盗賊まがいのゴロつきだったりしたら、目も当てられない。依頼中に闇討ちされて死ぬのは御免である。
「その点、ソウヤたちが通りかかってくれて助かった! あんたたちは腕がいいって評判だからな」
「運がよかったな、カルファさん」
ソウヤがニコリとすると、ミストが悪い顔になった。
「そうね。でももしワタシたちが、あなたの言う盗賊まがいのゴロつきだったら、どうするつもりだったかしら?」
「お、脅かさないでくれよ!」
荷台の上で楽しそうな笑い声が木霊した。話を聞きながら、道具の手入れをしていたセイジも微笑する。
街道を移動する浮遊バイク。ソウヤはカルファと最近の話や噂話をしながら情報収集をする。
「――しかし、いいなあ、このバイクって乗り物は。こいつがあれば、盗賊どもに襲われてもすぐ逃げられるんじゃないか?」
「まあ、全力を出せばね」
ソウヤは、しかし首を横に振った。
「だが案外、新しいところに行くと、うちらの噂を知らない連中が襲いかかってくることがある」
「こいつは目立つからなぁ」
「でも返り討ちよ」
ミストが肩をすくめると、カルファも頷いた。
「だろうな、ヒュドラ殺し」
そう言いながら景色を眺める。どこまでも広がる平原地帯。遠くで動物の群れらしきものが見えた。とてもよい天気である。吹き抜ける風も、心地よい。
途中、街道の分かれ道に差し掛かると、そこでカルファは降りた。
「ありがとよ、助かったよ。銀の翼商会はどこまで行くんだ?」
「バロールの町」
ソウヤは答えた。
「港町か。王国東端までとは、また遠いな。何しに?」
「魚を仕入れに」
「海の魚かぁ。扱いが難しそうだ。ま、頑張りな。……また機会があったら、乗せてくれ」
「運がよかったらな。幸運を」
「あんたたちもな。また会おう」
鞄を難儀そうに背負った先輩行商と別れ、ソウヤたちはさらに東を目指す。
王国東端までは、街道を進んで一週間ほどかかるのが普通らしい。だが、コメット号をとばせば一日もかからなかったりする。道中の町や集落などとまったく関わらなければ、の話だから、実際はもう少し時間がかかるが、徒歩旅に比べたら断然速いと言える。
数時間かけて、東進したソウヤたちだが、その途中、街道を外れた。無数の丘陵が波打つような広大な草原地帯。
その近くに、コーメという村があるのだが、そこに行く途中で浮遊バイクを停める。
村に行く前に、ひとつやらなければならないことがあったのだ。
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