第49話、ヒュドラ解体と取り扱い
「そいつは知っているな? 元Bランク冒険者のアニータ。今は丸焼き亭のオーナーだ」
ガルモーニが紹介したが、アニータ店長のことはモンスター肉の取引でお世話になっているので、むろん知っていた。
ただ、冒険者だった、という話は初耳である。もしかしたら、冒険者だったかも、くらいは思っていたが。
淡々とした紹介をよそに、アニータはソウヤに歩み寄った。
「ソウヤ君とミストちゃんで、ヒュドラを退治したんですってね。凄いわぁ。それで、もちろん、ヒュドラ肉、持ち帰ってくれたのよね!?」
圧が強い!――というのは置いておき、ソウヤは営業スマイルを浮かべる。
「もちろん。丸焼き亭さんには、きちんと卸しますよ」
そう答えたら、アニータは歓喜した。ヒュドラ肉は超絶レアなので無理もない。苦笑するは、ドレイクとガルモーニ。
「そいつは、店を開いたあとも、ちょくちょくモンスター肉関係の依頼をギルドに出してくれていたんだがな。肉の量に応じて報酬も上乗せされたんだが……中々、依頼消化率が悪くてね」
「そりゃあ、そうだろう」
ドレイクが肩をすくめた。
「ダンジョンの中で、モンスターを倒すのは問題ない。だが肉を持ち帰るとなると話は変わってくる」
アイテムボックス持ちや専門のポーターがついていなければ、運べる量は限定される。
「欲張って多く持って帰ろうとすれば、他のモンスターに出くわした時の初動が遅れるし、場合によっては、結局捨てなければならないこともある」
「狩人が森で狩りをするのとは、危険度が遥かに違うからな、ダンジョンは」
ガルモーニが、うんうんと頷いた。
「あまりに消化率が悪いから、適当な冒険者に割り振ったりもしたんだが……」
「あー、血抜きも知らない素人に任せたやつね」
アニータが笑顔で怒った。
「あれには頭にきたわ。肉に臭みがでちゃって、とても食べられたもんじゃなくなって! それで依頼料とかふざけるなって話よね」
「アニータの怒りはごもっともかもしれんが、ダンジョン内で血抜きなどやっていられないことのほうが多い」
ドレイクが、その冒険者をフォローするように言えば、アニータは肩をすくめた。
「まあ、それもわかるんだけどね。ただ不良品押しつけられて、金払えはさすがにないでしょって話。でも、だからこそ、ソウヤ君のおかげで、ある程度安定してモンスター肉を確保できるようになったわ」
「ギルドとしても、依頼者からの催促がほぼなくなったのは非常に助かっている。ソウヤ、お前のおかげだ」
「あら、ギルド長、そう言われると私が無理難題押しつけているようじゃない」
口をへの字に曲げるアニータ。ガルモーニは片目をつむった。
「ギルドとしては依頼を出してくれてありがたいが、向き不向きというものがあるからな。正直歯がゆいところはあったが、結果としてアニータには悪いと思っていた。すまん」
「ま、あなたは変なところで律儀なのは知っているし、たまにお詫び肉を持ってきてくれるから、怒っていないわよ。戦友のよしみだしね」
カラカラと笑うアニータ。
「あなたもギルド長として大変よね。月の依頼受注数のノルマとかさ。……これまで通り、うちからは継続して依頼を出してあげるからね」
「助かる。が、受けたからにはきちんと依頼達成率を上げないとな。きちんと成果を上げて――」
「あー、すまんが、お二人さん」
ドレイクがわざとらしく咳払いした。
「その話、長くなるかね? ソウヤが、退屈そうにしているぞ?」
「いや、別に退屈はしてませんよ」
興味深くはあったが、内心ではドレイクの言う通り、自分がここにいる意味あるのかな、とソウヤは思い始めてもいた。――サンキュー、ドレイクのおっさん。
「ギルド長とアニータ店長はお知り合いだったんですね。ひょっとして、ギルド長がオレらのことを知っていたのも――」
「そう、アニータから話を聞いたんだ」
ガルモーニは認めた。
「他にも、何人かの冒険者からな。その辺りのことも含めて、お前たちとは話がしたい」
「はい。そのために呼ばれたんですよね」
ソウヤは微笑で応えた。
そこでアニータも加えて、まずは回収したヒュドラの死骸の扱いについて話し合い。
とりあえずアイテムボックスに入れているので、解体はまだ。そこで冒険者ギルドでヒュドラの解体作業をお願いすることになった。
ヒュドラの所有権は、倒したソウヤたちが持っている。解体費用はギルドで持つ代わりに、いくらか素材を買い取らせてほしいとは、ガルモーニからの申し出。
一方、アニータは当然のごとく、ヒュドラ肉を買うと主張。この場に同席しているドレイクだけは、特に口出しせずに成り行きを見守った。
――ヒュドラ素材は、噂になれば買いたいって色んな人が寄ってくるんだろうなぁ。
ソウヤは考える。
何せSランクモンスター超貴重な素材だ。その体の一部でも金貨が袋一杯になるだろう。オークションなどやったら、どこまで値がつくか興味深くあるが、同時に怖くもある。
自分も商人であるからには、うまく大儲けするべきなのだろう。だがそれでいいのか、とも思った。
自分の利益だけではなく、周囲にも還元してこその商人ではないか。
――ここは、地域還元を兼ねて、ギルドに恩を売っておくか……。
貸しがある人間というのは、多少無理を言っても話は聞いてもらえるものだ。今後、ダンジョンなどで商売をすることを考えると、そのダンジョンを管轄にしている組織と仲良くやっていくことは、将来絶対にプラスになるのだ。
嫌われたら、ダンジョンを出禁にされる、とかもあり得る。ダンジョンに関してかなりの権限を持っている冒険者ギルドは、敵に回してはいけない。
「ひとまず解体でリストを作って、それぞれどうするか決めましょう。いくらかギルドに買い取ってもらうと思います」
「それで結構。助かる」
ヒュドラ解体の話がまとまり、次にソウヤたち白銀の翼、そして銀の翼商会のこれまでと、これからの話へと移る。
と、その前に、ヒュドラ素材関係の話が終わったので、アニータは席を立った。
「じゃあ、私はここらで退席するわね。ソウヤ君、ヒュドラ肉を手に入れた暁には、美味しいステーキをご馳走するわ。ヒュドラ退治の話、聞かせてね」
おネエさん店長とお別れし、残ったギルド長とドレイク相手に会談を続ける。
「――ダンジョン内で商売か。うまいことを考えたなぁ」
ドレイクは口元をほころばせた。
「いや、考えないわけじゃないんだ。だが、リスクを考えるとな」
「危ない場所ではありますね。でも特に禁止はされていないはずですがね。……まずかったですかね?」
ソウヤが顔を向ければ、ガルモーニが顎に手を当てながら答えた。
「いや、ダンジョンでも、商人がいてくれると助かる。それは今回の孤立した冒険者たちの元へたどり着いた時の、お前たちの行動をみて確信した」
ただ、ダンジョンが危険な場所であることは変わらず、外部から商人を呼ぶというのは難しいだろう、とギルド長は発言した。
「その点、冒険者が商人をやってくれる分には、問題はないな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます