嫌いな黒塊

まきもの

第1話 トゲ

僕は、人よりパンクしやすい

それ以外は何も周りと変わらない

でも、見た目じゃわからない

パンクしやすいのだって

甘えで生きてるとさげすまされ

嘘つきだ 逃げてる

バイキん ヒキニート

あんな大人になったらダメだと

レッテル貼られ


なんてキリがなくて

幻聴がすごい

リアルか幻聴かわからないから


身近な人間に言われたのが辛かった


「バイ菌だよな。最低な大人

 あんな大人にならんで欲しい

 関わりたくない」


「バイ菌か?小学生以来言われたり

 ヒキニートで最低な大人らしい

 まあ嫌われやすいからな

 あー電話切るの」


何もなかった様に電話して風に現れて

家に入ってく


玄関を閉めた途端に

心臓が痛くなった

呼吸の仕方も分からなくなりそうだった

けれど、今過呼吸になるわけにはいけない

慌てて部屋のドアを閉める


涙が出てきて、呼吸の仕方も

分からなくなって

ヘッドホンで大音量で音楽を聴いて

耳を塞ぎ

横たわり意識が飛んだ


気がついたら外は真っ暗だった


「嗚呼もう19時か」


携帯の時計を見ながら部屋の灯りをつけた

ヘッドホンは床に転がっていた

音量を確認にして

MAXのままだったから下げて

ホーム画面に戻したら


「え?やばいってか

 どんだけ鳴らしてんだよ」


着信が60件になってた


プルルー


ぴっ


「あわわあわわー」


『良かった。やっと出た

 玄関鍵開けてくんない?寒い』


ぷっ

ぷーぷーぷー


え?

どうしようどうしよう


あわわしながら玄関を開けて招き入れた


「おい。心配かけんな」


そう言って頭を撫でられた


「悪かったって。シゲ兄」


シゲ兄は、一つ上でお隣さん

幼なじみで

嫌いじゃないけれど苦手

熱量がすごくから


「あ。俺こそ悪かったよ祥太郎」


赤面し、顔を背けて謝ってきた

シゲ兄は、僕を大好きらしい

下心丸見えなのに…

ブレーキかけて必死に耐えてる

約束を守ろうとしてくれてる


数年前に


「俺…祥太郎が好きなんだ…

 けれど手は出さないし

 告白の返事は要らない

 そしてコレは、お願いだ

 手は出さないから…

 今まで通りお節介な

 幼なじみ兄でいさせて」


そんな風に言われたら

拒絶は出来ない

幼なじみ兄ちゃんとしては好きだから


「わかった。」


それだけ言うと

嬉しくて仕方ないのか

ありがとう ありがとう ありがとう

ってハグしてきたかと思ったら


「違うごめん言ったそばからごめん」


僕は、吹き出した


「シゲ兄おもろ過ぎ

 それくらいいつもと変わらないから

 怒ってないよ」


シゲ兄は安堵してた


そんな過去があるから

毎回言うセリフがある


「ったく、そのぐらい(頭ポンポン)

 なら、構わないってるだろ

 許容範囲内なら」


それでもシゲ兄は


「もう、昔ほど

 ブレーキ効かないだよ

 かけるの大変なんだよ」


俯き加減に言うシゲ兄

時々妥協した感じの甘えたい気分になり

受け入れそうになる

けれどそれは失礼に値すると思うから

言えなくて


「ありがとうシゲ兄

 だいぶ落ち着いてきたから」


ニッコリして言うと

安心したのか帰宅した


グニャ


「アレ?おかしいな?

 落ち着いたはずなのに

 震えが吐き気がふわふわ」


ガチャ


「ったく、落ち着いてないじゃないか

 ほら近くにいてやるから

 シャワー浴びてリフレッシュしてこい」


倒れそうになった瞬間にシゲ兄が再び現れ

ささえてくれた

耳元で

「頼れよ少しわ」

って囁かれた


「う、うんわかったそうする」


一瞬ドキドキが止まらなかった

きっと弱ってたから、シゲ兄が

キラキラして見えたんだ

そう言い聞かせようとしても


ずっと耳に残って仕方なかった


「頼れよ少しわ」


普通のトーンのはずなのに

ビターチョコの様なほろ苦い刺激と

ほんのり甘い香りがしてきそうな…


慌てて頭を振りながら

シャワー浴びてリビングに向かった


ガチャ


「お。やっと出てきたか

 お腹空いているだろ?

 キッチン借りて作ったから食え

 俺も食うから

 おじさんもおばさんも

 出張から帰るの明日だろ?

 明日は幸い土曜日だ

 少し遅く起きても問題ないだろ」


「うん」


なんか嬉しくてしかなくて


「ありがとうシゲ兄大好き」


「……。」


シーンとしてしまい


「…あいや お節介なところがだよ」


なんだ良かったって笑うシゲ兄


えっ?なんで痛みが走った

きっと気のせいだと言い聞かせ


言い聞かせたいのに

ずっとずっとシゲ兄のことばかり


僕は、甘えたいからシゲ兄が好き?

けど昨日の痛みはなんか違う

シゲ兄は僕が好きなのに

僕が「好き」を口にすると

哀れんだ様な悲しそうとも違う

なんとも言えない表情をする


いつもは痛みなんて無かった

数日前からずっとずっとずっとシゲ兄を

思うたび、痛みが伴って仕方ない

誰か教えてくれよ


トントン

ん?肩を叩かれたのでそちらに

意識が向いて、我にかえった


クラスメイトが紙を差し出してきた


“どした?恋の悩みか?(ニヤニヤ)

 BLの匂いがしたから

 とりあえず昼休み屋上で”


文面までもニマニマしてやがる(笑)

けれど思わず


「ぷっ どんな嗅覚だよ」


笑ってしまった

おかげで授業に集中できた


昼休み


「おーい、高谷?どこだよ」


ひょこ


「私はここだ」


「うへぃ」


笑われたし怖いしやだ帰りたい


くるりんストン


素直にすげー身体能力だなぁと思ったが

帰りたい(笑)


「まあいいじゃねえかよ

 話してみろよ 笑わないから」


笑わないと言いながらニマニマしやがって

まあいい

僕は話した

ここ数日の出来事を

昔の思い出はざっくりだけ


確かに高谷は、笑わないで聞いてくれた

ニマニマしているがな(笑)

顔に、『大好物な話です』って

書いてんじゃないかってくらいに


「ほほお。なるほど」


その一言だけ発して、考え込む高谷

なんだか落ち着かなくなる僕

数分沈黙のあと口を開いた高谷


「まあ、恋は理屈じゃない

 だがまだ恋だと決定づけるには弱いな」


僕は、少しチックとする反面

ホッとする自分もいた


「しょんたは、どうしたいんだよ?」


「えっ?」


「えっ?じゃないよ。こればっかりは

 しょんたの心にしか答えはないぞ」


わからないから悩んでるのに

一瞬で感情が溢れだして

キャパオーバーになり発狂しかけた時に


高谷にふわっと抱きしめられ


「ゆっくり息を吸って、

 ゆっくり吐き出して

 繰り返して」


ハッとして視界が広くなった時に


「しょんた?俺が見えるか?」


僕は頷いた


「ならよかった。焦った

 ゆっくり答え見つけて行こう

 話聞いて感情の整理するのは

 手助けはできるからな?」


手を握られながら

そう言われて、安心するのがわかった


「ちなみに、俺に抱きしめられたり

 手を握られてドキドキするか?」


一瞬キョトンとしたが


「ドキドキはしない。

 むしろただ安心する

 信頼できる医者に出会ったような」


「ぷっ、なんだそれ。例えがすげ〜な(笑)

 信頼できる医者か(笑)ハハハ。

 ドキドキするって言われたら

 どうしようかと思ったわ」


笑いながら安堵した表情で言う高谷

まあ確かに僕も困惑するわ

シゲ兄に抱きしめてもらいたい

頭撫でられたいもっと安心したいのに

もどがしい

なんだか視線を感じるな


「なんだよ?高谷

 更にニマニマしやがってキモい」


「キモいって酷いな

 自覚ないんだなしょんた」


「だからなんだよ」


「今はまだ教えてやらない」


昼休み終わるからと誤魔化された

ほんとなんなんだよ

ぶつぶつ言いながら教室に戻る


ボソっと高谷は何か呟いたけど

聞き取れなかった

気にはなったが、誤魔化され

はぐらかされるだけだった

モヤモヤして仕方なくて

甘い気持ちになりたくて

シゲ兄に会いたい

声が聞きたい

そればっかりで午後からの授業は

集中出来なくて

モヤモヤと苦味ばかり増えていく


放課後になり慌ただしく家路に向かう僕

家の近くなって、目の前が歪み始めた

意識が飛びそうになる

周りに誰もいないはずなのに

視線と声が溢れている気がして

あと少しで家に着くのに…


ハッと我にかえった時には

家の中にいた

とりあえずたどり着けたんだと安堵した

けどあれ?部屋着着てる

無意識に着たのか?まあいいや

とか思ってたら

部屋のドアが開いた


「気がついたか?」


今にも泣きそうなシゲ兄がいた


「もしかしてうずくまってた?」


キョトンとしながら質問してみた

案の定だった


「ありがとうシゲ兄」


心から満たされる気分になっていた


「そんだけ血色が戻ったなら大丈夫だな」


じゃ俺は帰るよと言って

ドアを閉めようとするシゲ兄を慌てて

引き留めようと勢いよく立ちあがろうと

して盛大に転けた


シゲ兄は呆れた表情を浮かべながらも

心配はしてくれて起こしてくれたけど

そのあとに言われた一言が衝撃的過ぎた


「祥太郎…おまえが俺に抱く感情は

 恋じゃない…優しくされたから

 芽生えた、一時的な感情に過ぎない」


そう言ってシゲ兄は帰っていった

僕はわけがわからなくなった

まるで心に、大量の棘が

刺ったかの様な感覚になり

思考回路が崩壊した

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