第230話 仕事が増える
半魚人の船が港に入り、陸に乗り上げた。
「野蛮人だな」
洗練されたシーカイナーズと比べたら申し訳ないが、半魚人は力押しだ。自分の力を過信しすぎて周りが見えてない。それとも頭に血が上りすぎてバーサーカー状態なのかな?
船から飛び出した半魚人たちは、シーカイナーズの地上部隊に撃ち殺され──てはないな。脚を撃って無力化しているよ。
「……威力、高くないか……?」
半魚人たちは間接部以外は鱗に覆われており、なかなかに硬そうだ。なのに、口径五ミリくらいの小銃にあっさりと撃ち抜かれている。おれの記憶ではそんな貫通するほど威力はなかったと思うんだがな?
「我々が使う銃火器はカイナ様の力で底上げされていますので」
そいつの能力、ヤバくね? 元の世界のものを出せて性能を向上させるとかチートにもほどがあるだろう。どんな能力を願えばそうなるんだよ?
次々と脚を撃ち抜かれていく半魚人。三十人もいたのに五分もしないで制圧してしまった。
「お見事でした」
「お褒めいただきありがとうございます」
満更でもないのが伝わってくる敬礼だった。
「事情聴取はシーカイナーズにお任せします」
丸投げだな。と言われたら肯定しておこう。シーカイナーズが対応したのだから後始末まで任せるのが筋ってものだろう?
なんて甘い考えも数秒でお仕舞い。カナハが通信を入れてきてしまった。
「父さん、黒いタコだよ! 魔獣なんだって!」
なにか興奮したカナハ。お前の興奮するツボがわからんよ。
「魔獣なので?」
カナハが魔獣である知識などないのだからルヴィーから聞いたのだろう。ルヴィーが知っているならカイナーズも知っていると言うことだ。
「グラーニーと呼ばれる魔獣です。ただ、通常のグラーニーは陸生。水にも潜りますが、海洋型は今回が初めてです」
「生命に溢れた星だ」
まあ、宇宙から生命体がやって来る星だ。いろいろ弄られた生命体がいても不思議じゃないだろう。
「見聞させてもらいます」
丸投げできないならいくしかない。ハァ~。
ヘイウット大佐に案内され、半魚人のところへと向かった。
半魚人は応急処置されて、後ろ手に手錠をかけられて二列に並べさせられていた。
それを横目にグラーニーと言うタコの魔獣を見る。
砲弾により原形を止めているものは少ないが、破片から黒いタコなのはわかった。
「魔獣と呼ばれるからには強い生き物なのか?」
砲弾に勝る生命体なら脅威だが、四散された姿を見せられると強いとはまったく思えんな。
「音もなく近寄り、狭い隙間にも潜り込める。締めつける力は強く、人なら簡単に骨を砕けるわ」
と、ルヴィーが教えてくれた。
軟体動物に体長を問うのは難しいが、サイズからして頭から脚の先まで二十メートルはありそうだな。
破片をつかみ、万能さんに解析してもらい、その情報を全スーツに送った。
「魔石があるのか。30000以上とは凄い」
ハルナと会う前なら喜び勇んで捕まえに出てただろうな。
「カナハ。まだ海に四匹かいる。排除してこい」
万能さんによる解析によりグラーニーの生体反応がわかるようになった。放っておくのもなんだし、カナハの糧になってもらいましょう。
「わたしもいい?」
とはルヴィー。まったく、おしとやかとは無縁な女である。
「好きにしな」
「タカオサ様。シーカイナーズからも出してよろしいでしょうか?」
「マーメイドスーツ、行き渡ってたか?」
探ればわかるが、なんでもかんでも情報を受け取ってたらおれの頭がイカれてしまう。いろいろ弄っても生身には限界がある。必要になったら情報を仕入れる。それが最良である。
「人魚に優先してますが、実験として一部隊を創設しました」
カイナーズってなにを目指して軍事拡張してるんだろうな? 世界征服を狙っているわけじゃないのに……。
「必要なら朝日の工場横にマーメイドスーツを造る工場を建てても構わないと伝えてください」
もう工場を建てて、生産はカイナーズに任せたほうが煩わしさがなくなって助かるよ。
「すぐに伝えます」
直通回線でも持っているのか、無線で連絡し、五秒もしないでお願いしますと返ってきた。
……即決即断にもほどがあるだろう。もっと精査しろよ……。
「では、工場に向かいます。カナハ。そちらは任せる」
丸投げしようとしたら仕事が増えていく。なんなんだ、これは?
だが、やらなければならないのだからやるしかない。と、自分に活を入れてイズキに乗り込み、シーカイナーズの車輛に囲まれながら朝日製造工場へと向けて発車させた。
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