第197話 娘

「……ルヴィレイトゥール、だったっけ?」


 誰だ、こんな言い難い名をつけたのは? 万能さんがいなかったら覚えられんかったぞ。


「ルビーでいいよ。ほぼ、それで通ってるから」


「そうか。なら、ルビーと呼ばせてもらうよ」


「うん。そうして。ルヴィレイトゥールなんてかったるいし」


 軽いと言うか、適当と言うか、誰に似た──いや、影響されたか感じか? おれもあいつもここまでじゃなかった……はず? う~ん。昔過ぎてあいつのことを美化してるっぽいわ。


「それで、どうしたんだ? 観光か?」


「まあ、そんなとこかな? おかあさんが昔来たってところらしいから」


「……そうか……」


「あ、おかあさんは生きてるからね。今もどこをさ迷ってるんじゃないかな? おかあさん、極度の方向音痴だから」


 そう言えばそんなこと言ってたな。


「まあ、その血がわたしにも受け継がれたらしくて、絶賛迷子中なのよね。ナハハ」


 血よりも濃い影響力。どんなヤツだよ?


「案内してやりたいが、これから仕事なんでな。これをやるから帰るといい」


 通信具を出して渡した。


「スマッグ?」


 転生者は傍若無人が多いが、なぜか前世の義務は果たすんだよな……。


「スマッグではないが、扱い方は同じなはずだ。わからないときは音声検索で調べればわかるよ。サイレイトさんの番号だけ入れてあるから、かけて迎えに来てもらえ」


 サイレイトさんも困ってるだろう。商会のお嬢さんが帰って来ないでは。


「ありがと。大事にするよ」


「ああ。それじゃな」


「うん。またね」


 と、あっさりわかれた。


 そのまま港に戻り、光月こうづきに乗り込み、銅鑼町に向けて発進した。


「……どう思う……?」


「あ、バレてた?」


 ハルナがテへとばかりに誤魔化している。


「おれとお前は一心同体。わからないはずはないだろう」


 ブライベートを守るために意識は遮断してるが、繋ごうと思えば繋げるようにしてある。それをわからないようにやるには万能さんでも無理ってもんだ。


「ごめん。タカオサ殿の震えを感じたもんで」


「震えてたか、おれ?」


「緊張してるのが伝わるくらいにはね」


 そうか。おれ、緊張してたんだ。わからんかったわ。


「男はダメだな」


 カナハやハルミなら普通に接することができるのに、ルビーの前ではなぜか身構えてしまう。


「父親なんてそんなものよ」


「そんなもんなのか?」


 父親歴の浅いおれにはまったくわからんよ。


「うん。そんなもの。気にしないの」


 そう言われてもな~って感じだ。モヤモヤする。


「あの子、タカオサ殿が父親だとわかってると思う」


 ハルナの言葉に胸の奥がキュッとする。


「……そう、なのか……?」


「確証はないんだけどね」


 女の勘と言うものだろうか? 男にはわからない世界だぜ。


「……難しいな……」


 自業自得とは言え、誰かに代わってもらいたいよ。


「打ち明ける気はないの?」


「ない。あの子はゼルフィング家の子であり、あの子を育てた者に申し訳ないからな」


 初めて会ったとき、あの娘はルヴィレイトゥール・ゼルフィングと名乗った。それは、その名に誇りを持っているからだ。愛されて育ったってことでもある。


「そっか。でも、会いに来たら受け入れあげてよ。それはタカオサ殿に甘えに来てるんだから」


「甘えに来てるのか?」


「だと思うよ。嬉しそうにしてたからね」


 おれにはまったくわからんかったよ。


「そうだな。そのときは受け入れるよ」


 娘としてな。


「うん。お仕事頑張ってね、旦那様」


「ああ。嫁と子どものためならえんやこら、だ」


 おれはそのために生きてるんだからな!

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