第167話 演出
部屋を出てやって来たのは大広間だ。
軽く五十人は収容できる大広間には、オン爺とその配下、館で働く女中、そして、ハルマの配下になった四人の子ども、総勢三十四人が四列になって座っていた。
誰が指示したかはわからんが、皆、綺麗な服に身を纏い、神妙な顔をこちらに向けている。
なにをするかと問われたら、序列発表会と答えておこう。
本当は店に集まる考えをしていたのだが、これだけの人数を店に移動させるとなると一苦労だし、時間もかかる。家を空にしてしまうのも不味いと、館と店でやることにしたのだ。
本当に誰が仕込んだか知らないが、家臣たちが一斉に頭を下げた。武家かよ!
おれたち家族が上座、五センチほど高くなった場所に立つ。
「頭を上げてくれ」
頭を上げよとか死んでも言えんわ!
「はっ!」
ここではオン爺がトップなのか、その返事で全員が頭を上げた。ほんと、仕込んだの誰よ!?
「忙しい中、よく集まってくれた。感謝する」
それでも威厳を出して言葉を出す。こんなことなら挨拶文でも書いておくんだったぜ。
「今回集まってもらったのは他でもない。町より望月家の名を正式に許されたからだ」
自称でいいのなら町からの許可などいらんし、必要ともしない。
「だが、望月家は国に、町に所属していない野良である。その意味は誰も知ることだから語るまでもないだろう」
魔物がいる世界で野良でいることは社会から捨てられたも同じ。前世で言うなら国籍がないってことだ。なんの保障もなく生きることは困難……いや、苦難だろうよ。
……おれも前世の記憶と能力を使えなければ四十手前には死んでいたことだろうな……。
「だが、おれの名で家臣にした者には望月家が責任を持って守り、生活を保証することを約束する」
無限の魔力を得た今、怖いことは……いっぱいあるが、それらを振り払い、駆逐しての当主である。その責任の重さに負けてはいけないのだ。
「しかし、その幸運を当然とは思うな。明日も続くと勘違いするな。自分の未来を他人に委ねるのではなく、自分で築くことをよしとせよ。これは望月家家訓であり矜持でもある」
家臣からミルテへと視線を移し、ハルナ、カナハ、ハルミ、ハルマと続いた。
「おれは望月タカオサ。望月家最初の当主である」
静かに、だが力強く宣言した。
「おれの妻であり奥を預ける望月ミルテ」
右に立つミルテが軽く頷く。
「第二妻で奥を仕切る望月ハルナ」
左に立つハルナも軽く頷く。
「ここにはいないが、長女であり商いを仕切る望月ハハル。次女でありおれの剣であり盾でもある望月カナハ」
錫杖のようなものの石突きで床を叩いた。
「ミルテの補佐であり女中を仕切る三女の望月ハルミ」
おしとやかやなお辞儀をした。
「そして、次なる望月家を支え武を示す我が息子、望月ハルマ。ハルマには左軍を任せる。望月の名に恥じぬ働きをせよ」
「はっ! 父に恥じぬ望月家の武となりましょう!」
緊張が見え隠れするが、次期当主としての精一杯の威厳を示した。
「ここに望月家は誕生したことを宣言する。皆にはその証人となってもらいたい」
こっからどうなるの? とやきもきしながらいると、オン爺が立ち上がり、続いて女中、ハルマの配下と続いた。
「望月家に繁栄あれ! 我らがその礎と成ることをここに誓います」
そんなオン爺の宣言に、他の者たちは肯定するように頭を下げた。
「ならば、おれもその誓いに誓いを立てよう。望月家を繁栄させるとな」
「はっ!」
と、オン爺も頭を下げた。
アドリブにアドリブを重ねて来たが、これが限界。上手い纏めの言葉が出て来ねーよ。
「オン爺。おれらはこれから出かける。留守を頼むぞ」
「はっ、いってらっしゃいませ」
うむと頷き、家族を率いて大広間から出た。
ほんと、誰が演出して仕切ってんだか教えて欲しいよ!
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