第148話 バカに鋏を持たせるな
「……酷いものだ……」
副事官殿は苦そうに呟いているが、徴兵され傭兵として生きて来たオレには当たり前の光景であり、酷いとも思えなかった。
……前世の記憶が蘇えらなければ結構ヤバいヤツになってたかもな……。
でもまあ、こんな血生臭い映像を見ても動じないのは助かる。前世で三十六年生きたことも、今生での三十六年は無駄ではなかったってことだ。
「……なにか、爆発な感じで肉塊にさせられた感じですね……」
爆雷系の魔術はあるが、この被害では大魔術師でもなければ不可能だろう。焦げた感じもないしな。
「魔術士か?」
「ではないと思います。この国にこんなことできる魔術士はいません」
いたら噂になる。他の町の情報がそれなりに仕入れられるくらいには流通があるからな。
「となれば、大陸から流れて来た、か?」
「かも知れませんが、これだけのことをできる者ならオン商会なりゼルフィング商会から噂は入って来てるはずです」
そのくらい情報を仕入れられない商会ではない。いたら話題で出してるはずだ。警告の意味でな。
「では、魔物……はありえぬか」
「はい。魔物なら食らってますし、姿を現します。これは、人の仕業です」
白髪の男と言う情報もあるが、そんな情報がなくてもこの惨劇を見れば人がやったとわかる。
「弱い者をいたぶって喜んでる下衆の跡だ」
戦場で何度か見たことあるし、傭兵時代もこんなことする下衆はいた。まあ、そんなヤツを後ろから刺して喜んでいたのはおれだけどな!
「カナハ。違うところも頼む」
「わかった」
操縦しているカナハもこの惨劇は見えているだろうが、これと言った動揺はなかった。まあ、黒走りや鬼猿を何十匹と解体してるしな、このくらいで参るわけない、と思っておこう。いらぬ真実は知りたくはありませんので。
やはり弱い者を狩るような感じで、肉塊の存在は街道に向けてあり、山の方向に肉塊はなかった。
「タカオサ様。サネです。逃げて来たと思われる作業人に出会いました。事情を聞き出します?」
サネから通信が入り、サネが見る映像に目を向ける。
復帰作業にかなりの人を投入していたようで、映像には何十人と見て取れた。
「事情聴取はこちらでやる。サネたちは先を進め。もし、危険と思われる場合や人がいたら速やかに逃げろ」
「はっ、わかりました」
また
木々が薙ぎ倒されたり、明らかに斬られた死体を見ながら考える。
現場から花木村までの間に村はあるが、街道沿いではないために花木村まで逃げて来たのだろう。
でも、その距離は二十五キロ。駆けようと思えば駆けられぬ距離ではないだろうが、それでも一時間や二時間では来られない。無我夢中にしても四、五時間はかかるだろう。平坦な道ではなく上り下りがあるのだからな。
そんな時間が空いて、犯人(仮称)はいるのか? もし、移動してたら花木村方面か最華町さいかまち方面しかない。
まあ、山と言う選択肢もないことはないが、これだけの力があるのならわざわざ山に向かう必要はない。向かって来たら排除すればいいのだからな。
「カナハ。近くに飯場はあるか探してくれ。人がいるなら熱源センサーでわかるはずだ」
犯人(仮称)もいる可能性はあるがな。
「わかった」
すぐに数十の熱源を感知。その方向に向かうと、急ごしらえの掘っ立て小屋が八つほど建ててあった。
炊事の煙が三つ、上がっており、兵士の姿も見て取れる。
が、どうも様子がおかしい。
「カナハ、止まれ」
と指示を出した瞬間、映像が揺らいだ。なんだ、今の?
続いて映像が波打った。いや、
「と、父さん、攻撃されたよ!」
だが、紅桜べにさくらが損傷したわけではない。衝撃を受けて揺らいだだけだ。
「──魔力攻撃か!」
魔術でも魔力でも受けたらこちらのものと、万能変身能力で作り出したものには魔力吸収するように設定しておいたのだ。
揺れたのは魔力量が多くて吸収するのが遅れたから。設定を変えれば問題なし。
連続で高威力の魔力攻撃が襲い来るが、設定を変えたら霧雨が当たるにも劣る。いや、一回の攻撃で10000もの魔力をいただけるとか、なんのボーナスステージだよって感じだな。
そのまま魔力をいただきたいが、やっているヤツはそれほどバカではないようで、八回で止めてしまった。クソ。
「父さん、どうする?」
「もうちょっと待て」
次なる攻撃を期待して待つが、一分過ぎても二分過ぎても攻撃はなし。もしかして、遠距離攻撃はあれだけなのか?
カメラ操作をこちらで行い、魔力攻撃が飛んで来たほうに向けた。
探すまでもなく犯人(仮称)が目に止まった。
「……
白髪と聞いたときからこいつの姿が浮かんでいた。
強さとしては抜きん出たものはあったが、人としては最悪。弱い者をいたぶるのが好きで、殺しもよくやっていた。
そんな下衆げすだが、知恵はあるようで、町で悪さはせず、国の法が届かないところでやるのだ。
だがまあ、バカに鋏は持たせるなタイプのようだ。
おれの嫌いなタイプではあるが、一番殺したいタイプではある。
「フフ。バカと鋏は使いようを教えてやるよ」
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