第113話 望月(もちづき)

「うむ! いい朝だ!」


 嫁パワーをもらったお陰で精神的疲労など天の彼方に吹き飛び、心の奥底から活力が湧いて来る。


「今なら魔王でも倒せるぜ!」


 まあ、魔力頼りのヤツなら根こそぎ奪い取って終わり、って感じだと思うけどな。万能変身能力、無尽蔵に魔力を貯められるし。


 そんなヤツ大歓迎と、朝から缶ビールをいただいてます。


「主ぬしよ。今帰った」


 と、久しぶりに翡翠ひすいが現れた。


「お帰り。野生は楽しかったか?」


 惨殺に次ぐ惨殺。この世にレベルアップがあるんじゃないかと勘ぐってしまいたいくらい魔力が膨れ上がった狛犬様。おれのラスボスにならんでくれよ。


「ああ。思う存分暴れて来たわ。カッカッカ!」


 なんかキャラ変わってね?


 まあ、命は日々成長するもの。性格もそのままではいられない、はず。と思って流しておこう、うん。


「なのでしばらく寝る。飯はいらん」


 なにがなのでかは知らんが、殺しては食らい、食っては殺しの弱肉強食。あれでまた食いたいとか言われたら山に捨てにいくところだわ。


 ……まあ、魔力を八十万も稼ぎ、魔物の皮や肉を採れたから、起きたらいいものを食わしてやるがな……。


 ハルマやカナハが起きて来て、朝の訓練を始める。


 これと言った訓練科目は与えてないが、いつの間にか二人で決めたのか、組手を始めた。


 もちろん、カナハが強いのでマギスーツに負荷をかけ、ハルマと同じくらいにしている。だが、勘のよさや相手の動きを読めるカナハが優勢で、ハルマは打たれたり投げられたりしていた。


「皆~! 朝御飯だよ~」


 二人の組手を眺めていると、ハルミが声がした。


 カナハとハルマはすぐに組手を止め、元気に家へと駆け出した。


 おれも缶ビールを飲み干し、空缶は万能素材に戻す。リサイクルは大事だからな。


 家へと戻り、食卓につく。


 昨日の歓迎会で散々飲み食いしたが、元気な娘たちの胃はすこぶる調子がよいようで、並べられた料理を野獣のような目で狙っていた。


「さあ、食べようか」


 おれの音頭で朝飯をいただいた。


「食いながら聞いてくれ」


 欠食娘たちの野獣を抑えられる自信がないのでな。


「まだ正式ではないが、家名を決めた」


 びっくりして箸が止まる、と言うこともなく、皆は飯を食い続ける。それはちょっと寂しいよ。まあ、ピンと来ないだけだろうがよ。


望月もちづき。それが家名だ」


 なんの捻りもないと言われそうだが、望月もちづきは前から好きな言葉だった。家名にするならこれと夢見ていた。


望月もちづきタカオサ。望月ミルテ。望月ハハル。望月カナハ。望月ハルミ。望月ハルマ。そして、お前らは望月家の家臣だ」


 前世のように姓と名前の語呂がよくないが、それは文化の違いと諦めるしかない。最初から家名に合わせるヤツなんてそうはいないんだからよ。


 ……タカオサのサがなければいい感じなのにな……。


「おじちゃん。ミルテさんたちはわかるけど、あたしら姪でも大丈夫なの?」


「家名登録時にハハルとカナハは、おれの娘とするから大丈夫だ」


 その辺は副事官殿に相談すればなんとかしてくれるだろう。ダメなら他を考えるまでだ。


「……おじちゃんが父親か……」


「嫌か?」


 おれが十六歳くらいで結婚してればハハルくらいの娘がいても不思議ではないし、叔父も父親も変わらんだろう。


「ううん。嫌ではないよ。おじちゃんのほうが甲斐性あるし、とうちゃんよりとうちゃんらしいし」


 兄貴、あんたはなにも間違っちゃいない。娘って生き物がこうなんだ。と、自分にも強く言い含めておく。


「あたしも嫌じゃない」


「まあ、家名を持ったらとうちゃんとは呼べないでしょう。そうなると父さんとか親父様とか呼ばなくちゃならないのかな~と思ってさ。あたしらにはちょっとキツいよ」


「あたしは、父さんって呼ぶ」


 カナハには抵抗ないようだ。まあ、こいつは思春期とかなさそうだしな。


「まあ、父さんが妥当か……」


 ハハルもある意味、思春期とか疎遠のような気がするが、なんかいろいろ乙女心の葛藤があるんだろう。よく知らんけど。


「じゃあ、おれも父さんって呼ぶ!」


 ハルマはまだ子どもなので素直に決められたようだ。


「あたしは父さんって呼んでるからこのままね」


 ハルミは思春期云々ってより、人ができていると言うか、達観してると言うか、頼りになる娘である。うん。


「あ、あの、あたしらはなんてお呼びすれば……」


 娘の一人が声を上げた。ハハルの副官的立場の子かな?


「親父様でいいんじゃない。旦那様はミルテさんだけのものだし、一家として親と子の関係にすれば。おじちゃん──でなく、父さんは家族を大事にするしさ」


 まあ、一家ともなればおれの庇護の対象だし、ご主人様呼ばわりするよりはマシか。


「皆が構わんのならそれでいいか」


「あたしらは構いません。親父様と呼ばしていただきます」


 他の娘たちにも否はないようで、親父様呼びに決定された。


「まあ、なんだ。よろしく頼む」


 はい! と皆の声が重なった。

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