第2話 今!?
なんてことのない平和な朝。目覚めた瞬間に前世の記憶が蘇った。
………………。
…………。
……。
えっ、今!? 思い出すの今!? いやいや、あり得ないでしょう! それ、どんな鬼畜よ? あんまりでしょう、こんなの!!
「ふざけんなよ、こんちくしょーがっ!」
煎餅布団から起き上がり、木の枕を力の限り蹴飛ばした。
うっすい壁をいとも簡単に突き破っていく木の枕。通常なら慌てるところだが、怒り心頭の状態では気にもならなかった。
ウガー! と頭を掻き毟っていたが、大切な髪の毛になにやってんのよと、頭髪を大事にする自分の叫びに我を取り戻した。
「……ほんと、ふざけんなよ……」
それでも怒りは完全になくなってくれないが、騒ぐだけ無駄と、煎餅布団に腰を下ろした。
「……まさか、記憶のほうに介入されるとはな……」
まったくもって想像もできなかったわ。さすが神さま。人知を超えてやがるぜ。
「ハァ~。自分の考えでは万能変身能力に介入が入ると思ってたんだがな」
変身といってもオレが考えたのは万能なスーツのほうだ。
前世で観た漫画に出てきた超々小型重力炉搭載で、重力を操れ、取り込んだものをナノマシンが複製できるといったものを超々小型魔力反応炉ーー簡単にいえば無限に魔力が湧いてきて、いろんな道具や 武器に変換できるといったものだ。
もちろん、一度受けた魔法なり魔術を覚えられ、使用できるといった機能追加も忘れない。やっぱ、魔法とか使いたいし。
「万能つけたままかよ」
自分でいうのもなんだが、そこは介入するところだろう。なに見逃しちゃってんのよ? オレが悪者だったら世界征服とかに乗り出しちゃってるよ。いや、面倒だからやらないけどさ。
「ステータスオープン」
いっててなんだが、スゲー恥ずかしいんだけど。
独り暮らしなのはわかっているのに、あまりの恥ずかしさに悶え苦しんだ。なんで、そんなこと願っちゃったよ、オレ! あのときの自分をクソ殴りてー!
い、いや、とりあえず、落ち着け、オレ。一つ一つ解決していこうぜ。
「……レベル23か。うん。ステータスオープンは一生封印しよう……」
これまで身体数値を知らなくてもやってこれたんだ、これからだって見なくてもやっていけるさ。大して使い道もないしな。
「しかし、レベル23か。若い頃、徴兵されたのが原因だろうが、よく生き残れたよな、おれ……」
いや、レベルアップできたからこそ、生き残ったんだろう。
何万人もの戦兵や徴兵がぶつかり合い、何千人と死んだ大戦。右も左もわからない十五、六の田舎の小僧が、生き残るなどあり得ない。同じ村から徴兵されたヤツらは殆ど死んだしな。
生き残りがオレと片腕をなくした幼なじみクルカだけ。そのクルカは、村長のところで下男として生きている。村一番のモテ男で、村一番の力自慢だったのに、だ。
ちなみにオレは貧乏農家の三男坊で、十人いたら八番目か九番目に思い出されそうな凡庸な少年でした──ってことはどうでもいいんだよ。今は、この混乱した記憶を落ち着かせることが重要だ。
まずは、三つの能力を理解しよう。
記憶の引き継ぎ。
正直、なんでやねん! な思いでいっぱいだが、神に介入されたらどうしようもないと、もう割り切るしかない。
……まだ、三十六歳。五体満足。病気なし。嫁はいないが、まだ先はある。そうポジティブに生きていこう……。
レベルアップできる体。
まあ、ステータスオープンはいただけないが、このお陰で生き残れて来たのだから文句はない。それどころか、前世の自分、グッジョブ! と叫びたいくらいだ。
レベル23。これまでの人生経験からいって、そう高くはないが、そう低くもない。傭兵級等でいえば四級程度。十級から始まるから中堅以上、上級未満って感じだな。
それだけあれば大抵の魔物は倒せる。黒狼の群れでも、まあ、なんとか倒せるレベル。一対一なら赤鬼でも倒せるだろうよ。
問題は、万能変身能力だ。
どんな世界、どんな環境で産まれるかわからない状況で快適に、かつ安全に生きるために考えたわけだが、今の生活にそれほど苦はないし、環境も悪くはない。
オレが産まれたところは、昔の日本と中国を足して、ファンタジーで割ったようなところ。
米もあれば味噌もある。少々値段は高いが、醤油もある。肉を食う文化でもあるから養豚養鶏もしている。牛はいないが、ミノタオロス的な魔物がいるので、牛肉もなんとか手に入る。
今の生活に不満なし──とはいえないが、まあ、前世よりはマシな生活をエンジョイしている。
「……なんか、神様が記憶に介入したのがわかってきたわ……」
人間、満足してると、闘争心とか出世欲とか、出てこない。
まあ、一概にそうだとは断言できないが、オレの場合、どちらもない。昨日と変わらない今日。今日と変わらない明日を求めてしまうのだ。
「前世と同じだな」
実に幸せな今生。とは思うが、なんか物足りなさもあるのも確か。平和故の贅沢な考えだな……。
「……万能変身能力は、まあ、追々でいいや……」
記憶の整理もまだ済んでないが、気分は落ち着いた。とりあえず、昨日と変わらない今日を始めるとするか。
いつもの日課、顔を洗うために、家から出た。
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