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「そ、先生。流派や倶纏の操り方だけではなく、生きていく方法や、本来高等部まで習う範囲を十二歳までの六年間で詰め込んでくれたんだ。浄化屋と本人は言っていたけど、その知識は多岐にわたったよ。政治・経済・医療、その他諸々と。一体、何をしている人なんだか。未だに分からない部分が多い。先生とは、その人がそう呼べと言ったから」
全く謎多き人だと、詞御は言葉をこぼす。現在に至っても、予測が出来ない人だから。
「名前を教えて、と言った事もあったんだが、『追いついたら教えてやる』と言われ、結局追いつけないまま六年間が過ぎ、十三歳を迎えた。そして、当時の浄化屋の受験資格を得て、一発合格したら『ここからはお前一人で生きていけ詞御。セフィアも一緒にいることだし問題ないだろう。次に会ったときには名前を教えてやる』と言われて一方的に放逐された」
これが三年半前の出来事になる。
結局、出会う事叶わず、時が過ぎ、やっきになって探していたらライセンス凍結の憂き目に詞御は遭う。その間も修行を続けて、なんとか上位・甲型に達することは出来た。が、その矢先に今の生活に至るという顛末。まいったよ、と詞御は心の中で思っていた。
「自分が振るう剣術が含まれている・高天防人流とは、平たく言えば、昂輝の扱いと各種ある武術を融合させた下位・乙型を極めた流派なんだ。既存の下位・乙型とは一線を画する。なんたって、階位の力の差の常識を覆すほどの威力を秘めているからね。極めれば、上位に迫るとさえ言われている流派。
成り立って歴史が浅い黎明期、過去の使い手が戦争でどこかの国に加担した結果勝利をもたらし、その国の人々の幸せは守れたけれど、敗戦国の人間を結果的に見殺しにしてしまった過ちもあったらしい。そんな歴史背景もあってか、それ以降は、その強さゆえずっとこれまで歴史の影に隠匿され続け、いつしかこの流派は吟遊詩人の詩に出てくる程度の認識しか無くなっていった。同時に、その長い歴史の中で唯一無二の
食事の為に一旦腰から外し机に掛けていた、愛刀が収められた鞘を手にする詞御。
それを依夜たちに見せるように掲げる。
「その理が自分が浄化屋にこだわり続ける二つ目の理由にも関わってくるのだけれど、それは、時代時代の苦難から目に映る『人々』を守っていくのが唯一にして絶対の理。流派の最後に【防人】とあるように、守るべきは、『国』ではなく『人』、なんだ。
そして、『国』に関わらない以上、それはあくまでもどの権力、どの派閥にも属さないことを意味する。自由の武力として初めて、やっとこの世界に存在を許されるのが自分が扱う力。『自由の力でなければ、必ずどこかに歪みを生み出す』、と先生に強く言われた。加担した勢力に間違いなく勝利をもたらし他の人間を不幸にしてしまうから、とも」
「何となく判る気がします。最終試験を務めた私にはわかる。詞御さんの流派には、まだまだ深く広いモノがあることを。恐らく、今日の騒動も、形振り構わなければ、貴方が持つ『力』だけで事態を収められたのでは、と今想像すると、そう考えられます」
依夜が隣に居る倶纏に目配せすると、同意見といわんばかりにルアーハの深く頷く姿が詞御の目に映った。だが、詞御は肯定もしなければ否定もしない。理ゆえに。
依夜たちも答えを求めてはいなかったのだろう、話の続きを促す視線を送ってくる。
「だから、自分は自分の信念とそれを含む理と教えを守り、警察にも軍にも所属するつもりはない。しがらみが多すぎるから、両方には。月読王国に籍を置いてはいるが、あくまで中立の立場であるという自負を自分は貫いている。浄化屋という職は、組織とはいえ、国際的な立場。
先生も在籍しているように、理に反しない。一人でも多くの犯罪者を捕まえれば、弱い人の手助けに成る。また理不尽な暴力で、泣く人・悲しむ人・苦しむ人を見過すなど、どんな理由があろうと放っておくなど自分はしたくない。流派の理も含め、これが自分が浄化屋の仕事にこだわる理由だよ」
「……そうでしたのですか、やはり詞御さんは凄い方ですね」
やっと納得してくれたのか、依夜はしきりに頷いていた。横を見れば、ルアーハも納得したらしく、しきりに頷いている。
〔そんなに凄いものかな? 自分の信念に従ったことをしているだけなのに〕
〔詞御を認めてくれる人が増えるのは私にとっても嬉しいことです〕
セフィアと思念で会話していて、詞御は尚も頭に疑問符を浮かべていた。
「さて、依夜とルアーハの疑問にも答えたところで、約束どおり、もう三つほど訊きたいことがあるのだけど、良いかな?」
「多いですね。でも約束なのでお受けします。何でしょうか?」
「いや、その壁にかけてある鞘に収められてある仰々しい柄を持つ刀と床に置いてある大きなバックは何かな、と思いまして」
ああ、と依夜がぽんと手を打つ。
「お母様が、序列二位の祝いということで、王宮の宝物庫からそれを詞御さんに、と。持ってみてください」
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