9日目




――9日目


 いよいよ明日の夕方頃、俺は死ぬ予定となる。


 学校からの帰宅後、俺と美玖と小春は夕食を済ませリビングで集まる。


 明日のことについて、どうするか話し合った。



「わたし、おにぃは学校休んだ方がいいと思う!」


「あたしも小春ちゃんに賛成だよ。この家で一日あたしと二人っきりで一緒にいようよ。シンシン、ね?」


(おにぃと二人っきりって……そっちの方が危険なんですけどぉ!)


 美玖の提案に、小春は大きな瞳を細めて凝視している。


「二人共ありがとう……でも俺、やっぱり明日は学校に行くよ」


「どうして?」


「う~ん……上手く説明できないけど、その方がいいと思えるんだよ。このまま逃げてちゃいけないというか……寧ろ、明日決着をつけた方がいいというか……」


「決着?」


「ああ、その俺を刺し殺そうとする奴のことを考えてね……たとえ明日は逃げれても、いずれ同じ目に合うかもしれない。いや、きっとそうなるだろう。だったら、事前にわかっている明日の方が手の打ちようもあるんじゃない?」


「うん、確かに言えるかも……時間帯も場所もわかっている……先手を打つ、だね?」


 美玖の言葉に俺は「その通りだ」と頷いた。


「でも、おにぃ、どう先手を打つつもりなの?」


「事前にネットで購入した『防弾刃ベストと手袋』が今日届いたから、念のため制服の中に着込むよ。少しは身を守れるだろ? あとは防犯ブザーとかスプレーとかも購入しておいてから持って行くさ」


「そうだね。あたしも常に目を光らせておくよ。その時間、シンシンに近づく奴は容赦なくボコボコにするからね♪」


 可愛らしい口調で物騒なことを言う、国民的JKアイドル。


 とりあえず、自分達に出来るだけの対策はしたつもりである。


 それに、二人には言わなかったけど、明日俺は家にいちゃいけないような気がするんだ。




 夜、パジャマ姿の美玖が部屋に入って来た。


「ごめんね、シンシン。こんな夜中に押しかけちゃって……夜這いじゃないから安心して」


「ドキっとするようなこと言うなよ……それでどうした?」


「うん。シンシンに、あたしがタイムリープしたきっかけを話した方がいいかなと思ってね」


「タイムリープか……そういや忘れてたな。確か10年後の未来だっけ?」


「そっ、キミのいない未来だよ……」


 美玖は淡々と語り出す。


 美玖は10年後の27歳では、アイドルを卒業し女優として活動していた。

 女優としても才能を開花し毎日が忙しく充実はしていたようだ。


 肝心のタイプリープしたきっかけは、美玖もよくわからないらしい。


 なんでも以前からストーカーに狙われており、仕事場からの帰宅中に背後からスタンガンを撃たれて気を失ったのが最後だったと話してくれる。


「――だけど、シンシンがいない世界ってなんか虚しくてね……胸にぽっかり穴が開いたというか……つまらなくて、プライベートではいつも一人で過ごしていたなぁ」


「俺が聞くのは変だけど、誰かと付き合ったりとかは?」


「そんな気持ちになれないよ……キミじゃなきゃ嫌だもん」


「ごめん……」


「ううん、仕方ないもの……結構、声は掛けられたよ。共演した俳優さんとか映画監督とか、あと有名な実業家とか」


 それを全て断わっていたのか……それはそれで凄い。


「あとね、間宮さんも――」


「間宮さん? あのマネージャーの?」


「そっ、あたしがデビューした時から、ずっと好きだったと言ってくれた……嬉しかったけど、断っちゃった。だって、あたしにとってお兄さんみたいな人だから」


「そう、いい人そうだけど仕方ないよね」


「うん……だから、もう後悔したくないの。シンシンのこと、あたしが必ず守るからね」


「ああ、ありがとう……けど、無茶だけはしないでくれよ。美玖に何かあったら、それこそ俺は生きていけないんだからな」


「……シンシン、やばいよぉ。超嬉しい……」


「美玖……」


 俺と美玖は自然と顔を近づけ唇を寄せる。

 彼女と一緒にいられるなら、俺は生きたい、生きていたい。


 そう愛しさと切なさで胸を焦がしながら、お互いの気持ちに身を任せた。



 ――が、



「おにぃ! 変な声聞こえたら、お母さんに言いつけるからねぇ!」


 やばい、小春が壁ドンしてくる。

 どうやら、ちゃっかり聞く耳を立てていたようだ。


 年頃の妹が隣の部屋にいるのに、確かに不謹慎か……。


 結局、寸止めで美玖は自分の部屋に戻っていった。




【芯真が死ぬまで、あと1日】




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