第29話 勇者アオと剣聖シロ

 わたしがお店ヘ入るとカウンターの中に、マスターとカミヤさんがいた。



「マスター、場所合ってる?」


「違いますよ、カミヤさん、もっと下です」


「おっ、良い感じかな。入ったかな、どうマスター?」


「良いですね、良い感じです」



 カウンターの中で、もぞもぞと動く2人の男性。勇者カミヤの聖剣がマスターに刺さったのだろうか?



 わたしは、そっと扉を閉めた。



 振り返ると、向こうから勇者アオと、剣聖シロが連れ立って歩いてくる。


「あれっ、先生お店入らないんですか?」


「えーと、なんか、マスターとカミヤさん取り込み中だったみたいで」


「ああ、俺も頼まれていたんですが、間に合わなかったですかね。なんでも、キッチンの排水が調子悪いそうで、修理の手伝い頼まれていたんですが」


「あっ、そうだったんだ。ハハ」



 わたしは、引き返し、勇者アオ、剣聖シロと共にお店に入る。



「先生、親父さん、お疲れ様です。アオも、そう言えば、修理カミヤさんに手伝って貰っちゃてさ」


「さっき、先生に聞きました。直ったんですか?」


「ああ、もちろん。俺がやったんだっぜ、完璧に決まってんだろ!」


「カミヤさん、本当にありがとうございました。助かっちゃいましたよ」



 すみません、誤解してました。マスター、カミヤさん。心の中で謝る。わたしは、グラスワインを飲み始めた。






 お酒が入ってきて、寡黙だった。剣聖シロも話し始めて、話が弾む。



「そう言えば、カミヤさん、うちの息子はどうですかね?」


「ええっと、親父さん心配ないよ! ほら、タクと違って真面目だし、あれ。ちょっと弱いだけだからさー」


「カミヤさん!」


「ハハハ、良いのです。そうでしたか、弱いですか。わたしも、カミヤさんに比べれば弱い部類ですが、うーん、アオ再特訓だな」


「えっ、親父が修行してくれるのか?」


「ああ、だけどきついぞ」


「わかってるよ。俺やるよ」


「頑張れよアオ。まあ、無駄な努力になんないと良いね!」


「カミヤさん!」




 勇者アオ。良いね。熱いよ。まあ、カミヤさん強い理由もう一つあるから、それはわたしがなんとかするかな。





 わたしは、ザーマ神殿から、一本の剣を持ち出すと、南の森に向かった。そして、勇者カミヤによって広場になってしまった場所にたどり着く。そこでは、剣聖シロが勇者アオを再特訓していた。



「アオ、目で見るな! 心の目で見るんだ!」


「ああ」



 剣聖シロの目にもとまらぬ斬撃は、日本刀によって白い糸が空間に漂うように、描かれる。それを、なんとか避けて、勇者アオが斬り込む。しかし、剣聖シロは、余裕をもって避けると。さらに高速の斬撃を繰り出す。もうわたしの目には、刀が見えない。



 激しく訓練する2人を黙って眺める。見てて飽きない。わたしは、剣については詳しくないから、良くわからないが。勇者アオは、剣聖シロの剣技を吸収して、急激に強くなっているのだろう。



 そして、勇者アオは、当然だが勇者だ。勇者がなぜ勇者かというと、勇者力というか、特別な力を使えるからだ。



 うーん、なんと表現すれば良いのか? 要するに気のようなものか。力をこめると、身体能力は、上昇し、剣に纒わせると、絶大な攻撃力をもたらす。



 勇者カミヤは、傍若無人な程の攻撃力を持つが、それは、勇者力が絶対的に大きいから、そして、聖剣によってそれを効率良く使えるから。勇者アオの剣は、ただの良い剣。




「よし、今日はここまで」


「ありがとう親父」


 爽やかな汗を飛ばして、勇者アオが頭を下げる。


 勇者アオと、剣聖シロの特訓が終わったようだ。わたしは、2人にゆっくりと近づく。



「アオ君、親父さんお疲れ様です」


「おお、先生お疲れ様です」


「先生。どうもお疲れ様です。どうかしました?」


「頑張っているアオ君に、わたしからのプレゼントをと思って」


「プレゼントですか?」



 わたしは、一本の剣を取り出すと、勇者アオに渡す。黒い鞘に黒い刀身、そして柄にはバイデントをイメージしてある。デザインは、あれだけど、すごい剣だぞ。



「これは、魔剣ですか? 先生」


「デザインは、あれだけど、一応神剣」


「先生、神剣って!」


「そう、カミヤさんの聖剣を超える剣」


「いや、こんなの頂けませんよ!」


「いや、大丈夫だから、ザーマ神殿こんなの、いっぱい転がっているから」


「えっ。ザーマ神殿って神様の扱い方ぞんざいですね。普通聖剣ですら、国宝扱いなのに」


「うん、しょうがない神殿だね」





 こうして、神(殺しの)剣。冥界剣プルートは、勇者アオの物となったのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る