勇者カミヤの暴言

刃口呑龍(はぐちどんりゅう)

第1話 キャットハウスへ、ようこそ

 ここは、カナリア王国ザーマシティ。その一角に冒険者達が集まる飲み屋があった。名前はキャットハウス。陽気なマスターの作る美味しい料理と、コストパフォーマンスに優れた店だ。



 今日も今日とて、仕事の終えた冒険者が集まる。その一人がわたし。まあ、冒険者ではなく、ザーマ神殿で冒険者の治療にあたる神父なのだけど。



「マスターワインちょうだい」


「先生良く飲みますね。大丈夫ですか?」


「ワインはね、神の血なんだいくら飲んでも明日の活力にしかならないよ」


「そうなんですか。だったら大丈夫ですね」



 神殿を早目に出て、店の開店と同時に飲み始めて3時間。今日も、少しずつ冒険者達が、仕事を終え、集まってきている。そこへ、若手の冒険者パーティーが帰ってくる。





 確か、勇者アオと、戦士タクに、魔術師ユナ。そして、狩人ハッタだったか?



違った。そうだった、狩人ハッタは、魔術師ユナに振られてパーティーを離れたんだった。今は3人パーティーだ。



 その狩人ハッタは、同じ狩人の先輩ゴトーと別の場所で、飲んでいた。




「マスターお疲れっす。今日勇者カミヤいる?」


「今日は、まだ来てないよ。それに馬鹿! 勇者カミヤさんだろ」


「すみません。カミヤ来てないって、入るべ、入るべ」


「だから、カミヤさんだろうが、馬鹿タク!」




 若き勇者グループ。治安の比較的悪い冒険者の町ザーマシティだが。若き勇者達は、希望。だが、今は平和な世の中、平和に活躍している。





 20年前のカナリア王国は、恐怖のどん底にあった。魔族の王、魔王と呼ばれる存在がカナリア王国に君臨して、王国軍と激しい戦いを繰り広げていた。




 その魔王をたった一人で倒したのが、勇者カミヤだ。カミヤは、カナリア王国の英雄。いや、世界を救った救世主なのだ。



「あっついね~! マスタービールちょうだい」


「げっ、カミヤだ!」


 戦士タクの声がする。勇者カミヤは、気にしていないようだ。



 勇者カミヤ。部屋に入ったのに兜は取らない。完全装備。マスター曰く、髪の毛が薄くなってきたのを気にして、外さないのだそうだ。




「お疲れ様、カミヤさん。はい、ビール」


「おー、お疲れ~。ゴクゴクゴキュ。ぷはー! うんうまい!」


「カミヤさん、お疲れ様です」


「先生もお疲れ」


「最近はどうしてるんですか仕事?」


「いや、だいたい人助けだよ。これで休みなく働いて、40連続勤務だよ。遠くカンナーシティや、チェリーシティで、魔物狩り行ってさ! 俺、基本一人だからね」


「パーティー組まないんですか?」


「ダメダメ、俺の動きについてこれるやつなんていないよ。俺も今でこそ、年取って、若干弱くなったけどさ、昔はさ、強くてさ~」



「はい、始まりました。勇者カミヤの昔強かった話」


「おい、タク」


「な、何ですか?」


「声でかい、うるさいよお前」


 カミヤさんの声のほうが数倍でかい。そして、うるさい。



「でさー、って何の話だっけ?」


「昔強くてさ~、って所です」


「ああ、そうそう、昔強くてさ~、魔王も、こうやってちょいちょいって、感じだったんだぜ」


「凄いですね。カミヤさん、若い冒険者に、その経験を伝えてあげないと、いけませんね」


「げっ、余計なこと言うなよ先生」


「そうだな!」



 そう言うと、勇者カミヤは、立ち上がって、勇者アオのテーブルに向かう。3人の顔がひきつっている。




「先生も、悪い人ですね」


「マスター、何が?」

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