2-21 突入

───総督府、門前にて


屋敷では華やかな歓迎会が開かれている頃、外の門番二人は愚痴を言い合っていた。


「は~、良いよなぁ神器使い様てのは。今頃旨い飯食って、この後はあのかわいこちゃんと宜しくできるんだからな~」


「なんだお前、シュナイダーさんが連れてきた女が好みなのか?」


「へへ、まあな。コトが終わったらつまみ食いさせてくんねかな~」


「全くお前は。しかしほんとかよ、その女のツレにシュナイダーさんが気絶させられたって」


「あぁ、本当大変だったよ。なんせ運ぼうにもあの人重いし、目が覚めたらリベンジしようと店に戻って暴れだすし、本当に目茶苦茶だったよ」


「で、結局気絶させた本人はいなくて女だけを連れてきた──」


──バタッ


会話の途中に突如として倒れる門番の二人に、その後ろに佇むダリル。彼らは気絶させられたという事実すら認識出来ずにダリルの手刀によって意識を失っていた。


「スッゴいわね~。今のはどうゆう手品なの?」


物陰から出てきたクレイは大きな瞳を輝せながら聞いてくるがダリルは無視する。


「さぁ、お目当ての敷地内だぞ。さっさとポーチ返しな」


「ちぇっ、冷たい人。そんなんじゃ、モテないわよ~」


子供のように頬を膨らませながらクレイはポーチをダリルの方に手渡す。


「それじゃあ契約成立ね。せいぜい、大暴れして頂戴ね~」


「何をするのか分からんが、欲かいて深入りするなよ」


かくしてダリルは堂々と正面玄関から、クレイは猫のような身のこなしで二階の窓から総督府に侵入するのだった。


──ガチャ


「おじゃまするぜ」


まるで実家のように堂々と入ってくる侵入者ことダリルを前にして、警護に当たっているデニッツの私兵達は言葉を喪い、当惑するッッ!!!


「お、お前、酒場のやつ! やはり女を取り返しに来たのか!?」


「そんなことはどうでも!! 神器使いは何処だッッッッ!!!」


「え、ええぇぇぇぇ!?!?」


脅し文句の神器使いの存在すら封じられた私兵達が驚きの声をあげるのも束の間、目にも止まらぬ速度で駆け出したダリルは瞬く間に一人を残し敵対者達の意識を刈り取るッッ!!


「ひ、ひぃぃぃ! ば、化け物め!」


「化け物でも何でも良いから、神器使い様がいる部屋を教えろ····ッ!」


そう言いながら、神器使いを近くにして闘争心を押さえきれないダリルは本人も気づかないうちに出ている悪魔的なスマイルで恫喝するのだった。


───トロータの歓迎会場にて


「ささ、トロータ殿! お次はこのハイデンベルクで有名な大道芸ですぞ!」


女の確保に成功したデニッツは一先ずは安堵し、トロータのおべっか使いに徹していた。


「····いや、もういい。下がらせな」


「へっ? そうですか·····」


「あと、アンタももう下がりな」


「わ、私もですか? あのぉ、何かお気に召さないことでも····?」


デニッツは恐る恐る伺うが、トロータから反ってきたのは意外にも満面の笑みだった。


「逆だよデニッツそんよぉ。やるじゃないか、アンタ! こんな『極上の獲物』を用意してなんて」


「? ああ!! そういうことですか、気がきかず申し訳ない! それではこのハイデンベルク総督府デニッツ、失礼いたしますので何卒ジーク殿下に宜しくとお伝えください!!!!」


恐らく町から拐ってきた女のことだろうと勘違いしたデニッツは、トロータに気に入られたこと、引いてはジークの覚えが宜しくなったと歓喜し、全力で媚を売りながら軽やかに部屋をあとにした。


だが、無論トロータが『極上の獲物』と評していたのはベロニカなどではない。


(ククク、いるとこにはいるもんだねぇ。侵入してから10人、いや11人か·····。反撃させるどころか声ひとつ出させずに制圧してやがる。そして隠す気もなく殺気染みた闘争心を放って、自分の存在を誇示してるなんざぁ·····)


トロータは満足そうに笑いながら椅子から立ち上がり、上半身の服を脱ぎ始める。その筋肉は細身で凹凸は控え目だったが、絞られた筋肉筋が良く目立ち、不必要な物を極限まで削ぎ落とした機能美に富んだ肉体をしていた。


「ちんけな泥棒なんかじゃねぇ、狙いは神器使いの俺か···!」


───総督府四階にて


「案内はここまでいい、ありがとよ」


突然の解放宣言にここまでダリルよって無理矢理案内してきた私兵の一人は目を丸くする。


「でも、もうすぐで···」


「この通路を右に曲がって、左手四つめの扉が神器使いのいる部屋だろ」

 

「なっ!?」


驚きの表情を浮かべる私兵、ダリルは正確に神器使いのいる部屋を言い当てていたのである。


「わかるさ。向こうも此方の気概に答えてくれているんだからな」


唖然と立ち尽くす私兵をおいてダリルはその扉の前へと歩みを進める。  


何の変哲もない木製の扉、だが当のダリルにとってはまるで刑務所の重厚な門のような威圧感を放っているように感じていた。


不意に高まった鼓動を静めると、意を決してゆっくりと扉をあける。手に伝わる確かな木の感触、されどまるで本能がこの部屋に入ることを拒むかのように重い。


(プレッシャーはゾルトラ並みか·····)


ダリルは自分の中に押し寄せる高揚感と恐怖心と共に、部屋への一歩を踏み出した。


そして、ダリルは目を奪われることになる。豪華な装飾品も、銀色に輝く燭台も霞むほどの圧倒的存在感放つ一人の腕組みをして仁王立ちする一人の男に──


『神に選ばれし者』にッッ!!!!!!


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