1-74 決戦の日、来る

───御前試合の2日後、王都より100km程度西の魔王軍本陣にて


「──以上が我が軍の状況でありまして、明日にも進軍を再開出来る見通しです」


秘書のアネモネはテキパキと魔王軍の概要を説明するが、その相手は主である魔王フレイアではなく、


「おぅ、ご苦労だったなアネモネ。明日からもっと忙しくなる、今日はもう休んでくれ」


魔王軍四天王の中で唯一強行軍に参加し、エベリアへと戻った魔王フレイアの代行として総指揮をとるゾルトラであった。慣れない事務仕事をしているせいか目の下には大きなクマができ、深紅の赤毛の中に白髪が少し目立ち始めていた。


「それとゾルトラ様、もう一つ報告したことが····」


「なんだ、アレウスの件で何か進展があったのか? それともゼラやドラクの馬鹿野郎どもが遂に反旗を翻したか?」 


冗談をいいながらケラケラと笑うゾルトラを無視してアネモネは話を続ける。


「いえ、王都の協力者達からの報告に少々奇妙なものがありまして」


「わざわざ報告するほど重要な話なのか?」


「はい、何でもフランシア側は我が軍に対して正式に籠城戦を採用したようなのですが·····」


「ですが、なんだ?」 


「·····誠に奇妙な話ではありますが、一人だけ前線に配置し我が軍を迎撃させるようなのです」


「ハァ? 俺が言うのもなんだが、さすがに冗談だろ?」


「いえ、それが本当らしく現に民衆にもこの方針は布告され知れ渡っているようなのです····」


「血の気の荒いフランシアの勇者どもやグランオルドルどもはよく黙っているな、一世一代の活躍の場を全部そいつにもっていかれる訳だろ?」


「それもわざわざ御前試合を開催し、その人物の強さを幅広い民衆に目の当たりにさせることで納得させたとか」


「なるほどねぇ。で、誰なんだ? 俺のエベリアでの『真似事』をしようとする馬鹿は、ストレリチアか? まさか行方不明のブレイド?」


話半分であまり信じていないゾルトラ、だがアネモネから飛び出た名を聞くことで目の色を変える。


「·····フランシアの人間はその人物をこう呼んでいるそうです。『鬼拳』のダリルと·····」


ゾルトラは思わず立ち上がり聞き返す。


「······今何て言った?」


「·····ダリルです。魔王様がアレウス様と同じ『神が宿りし者』と目していたあの人物です·····!」


「違うそうじゃない! その『鬼拳』てのはどういう意味なんだよ!」


「き、『鬼拳』の方ですか。何でも、『鬼をも征する拳を持つ男』という意味のようですが·····」


「『鬼』を征するねぇ····· 随分と生意気な渾名じゃねえか、おい·····!」


『鬼』が誰を指しているかゾルトラは勿論理解していた。だが、それにも関わらず男は不満の表情を作るどころかどこか愉快そうに好戦的な笑顔を作る。


「ゾルトラ様、わかっていると思いますがこれは策略です。総大将である貴方を一騎討ちに持ち込もうとする罠で間違いありません!」


ゾルトラは粗暴な男ではあるが脳筋の馬鹿ではない、その可能性が高いことぐらいはアネモネに忠告されずとも分かっていたが、


「·····どうかねぇ、案外本当にあの馬鹿はノコノコ出てくるかもしれねぇぞ」


ダリルに関しては違った! あの男はそのような姑息な真似は決してしないと、あの男はそんな罠を仕掛けることを良しとは絶対にしないッ!


ダリルとはココネオ村での僅かな時間しか対面してないが、拳を交えたゾルトラはまるで昔からの親友かのように信頼していたのである。


(随分と面白いことしてくれじゃねえかダリル····· どれ程強くなったか分からんが楽しませてくれよなぁ·····!)


好戦的な笑みを浮かべながら強く握りしめる拳。魔王軍の行軍再開と共にゾルトラとの決戦の時が迫ろうとしていた。




───魔王軍行軍再開から半日後、王都の王宮にて


「ん~、明日から修行の再開は出来そうだな!」


「まったくやっとか···· プルムお前、ちょっと治癒魔法の腕落ちたんじゃないか?」


「うるせぇ! 毎度毎度死にかけの奴治療してんだぞ! むしろこの短期間で目茶苦茶上達してるわ!」


重症を負ったダリルを治療するプルム。何度も見慣れた光景ではあったが今回は少し様子が違った。


「······ところでプルム、さっきの話は本当か?」


「本当だよ、直接カルミアに言われたからな···· 魔王軍の到着は四日後だ·····」


「四日か·····」


待ち望んだ再戦の日、男の中に興奮と不安が入り交じる。


「まぁ、焦ってもしょうがねぇ。残された時間でやれることをやるだけだ」


飄々とした態度のプルムを見ながら、ダリルは問い掛ける。


「その残された時間とやらで、どんな修行をやるんだ俺は?」


待っていたとばかりにプルムはニヤリと笑う。


「·····そりゃあ相棒、これから強敵相手に闘うってんだ、やることとは一つだろ」


「一つとは?」


「格上を倒し得る『刃』、必殺技の修行に決まってんだろうがよ····!」───











そして時は流れ四日後、魔王軍もといゾルトラとの決戦の日が来るッッッッッッ!!!!──

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