1-65 誹謗中傷

───次の日の朝、王宮の一室にて


──ドンドンドン


激しく何度もドアを叩く音は一仕事終えて深い眠りについていたプルムを苛立たせながら起こさせる。


「だぁ~、なんだようるせぇなぁ! こっちは疲れてんだよチクショー」

 

どうせメイド辺りが起こしに来たのだろうと思ったプルムは、若干の怒りを込めてドアを思いっきり開けると、


「? どうしたこんな朝っぱらから─」


悪態の一つでもついてやろうと思っていたプルムはその人物を見ると直ぐにその考えを引っ込めた。そこに立っていたのはここまで走ってきたのだろうか、額に大粒の汗を垂れ流しながら息を盛大に切らし、左手に今朝の朝刊を握りしした、


「マリーよ?」


マリーだった。


「ハァハァ、ぷ、プルムちゃん····· だ、ダリルは今どこに····」


「あぁ、相棒のことか、後ろでスヤスヤ寝てるぞ? そんなことより聞いてくれよ! 彼奴昨日の夜、血まみれで帰ってきたと思ったら人が安眠しているのを叩き起こして今日中に治療しろとか言って来たんだよ! おかげで徹夜で治癒魔法を──」


「そ、それだわぁ····」


マリーはプルムの話半分で合点し、力なく廊下に踞る。


「お、おい大丈夫かよマリー?」


プルムの心配に対して、マリーは首を横にふる。


「····大丈夫じゃないわ。このままじゃあダリルこの王都に····· いや、フランシアに居ることすら出来ないかも·····」




───同時刻、グランオルドル団長執務室にて



外からは見えないが執務室からは入室を拒む程の険悪な雰囲気が醸し出されていた。今、この部屋に居るのは二人のみ。


一人は剣聖兼臨時団長のストレリチア、そしてもう一人はグランオルドルの精鋭部隊である五星侠の筆頭格、ガナードである。


ストレリチアは珍しく静かな怒りに任せて、朝の朝刊を机に叩きつけガナードを睨みつける。


「私はお前にドレファスとダリルを接触させないよう指示したはずだぞガナードよ。そもそもこの記事はなんだ、まさかお前が情報をブンヤどもに流したんじゃないだろうな·····!」


対するガナードはストレリチアの怒号を前にして表情一つ変えずに釈明し始める。  


「申し訳ございません、私の説明不足で少々『解釈』の違いが生じてしまったようです。ドレファスには意識が戻り次第、無期限の謹慎処分を言い付けます。しかし、新聞の件は聞き捨てなりませんな、私が流したという証拠はおありで?」


無論ストレリチアにはそんな証拠はなかったが、


「·····そこまでして、お前は団長になりたいのか····!」


この発言でガナードの口元が一瞬歪む。


「·····何のことだかさっぱりで」


「すっとぼけるなよガナード···· この記事によって明日の御前試合の意味合いが尋常な決闘から、ベルモントの仇討ち劇へと変わったのは明白。お前がダリルに勝利すれば、世論はお前のことを称賛して正式な団長選での後押しになる···· 違うか?」


「·····重ね重ね言いますが何のことだかさっぱりで。これ以上、証拠の無い話には付き合いきれません、明日の試合もありますので失礼します」


ストレリチアの疑惑を全てはね除けたガナードは背を向け退出しようとドアノブに手をかけるが、


「もっともお前が勝てればの話だがな·····!」


皮肉たっぷりに飛んでくる言葉にガナードの動きが止まる。


「·····それこそ証拠の無い話だなストレリチア···· 私があんな魔法使い崩れに遅れを取るとでも思っているのか·····ッ!」


「口調が昔に戻っているぞガナードよ。全てお前の思い通りに行くと思うな。何の打算もなく、ただただ強さのみを求めるあの男は手強いぞ·····!!」



───同時刻、ダリル達が寝泊まりしてる王宮の一室にて



起こされたダリルとプルム、マリーの三人は今朝の朝刊を眺めていた。そこには──



『スクープ! 真夜中の殺戮劇! グランオルドル精鋭五星侠の一人が半殺しにされる!? 相手は元黒狼騎士団所属のダリル氏!!!』


『ダリル氏はベルモント元団長の命を奪ったロベリアとの幼馴染みとの情報も!?』


『関係者の話だとベルモント元団長殺害の実行犯との噂もあり!?』


『しかも黒狼騎士団を追い出させたのも性犯罪絡みとか!?』



そこに書かれていたのは虚実を織り混ぜた明らかなダリルに対する誹謗中傷の記事であった。


「····なぁ相棒。昨日の怪我ってまさか····」


「あぁ、五星侠とやらのドレファスと戦いで負った傷だ」


恐る恐る聞くプルムに対して、堂々と返答するダリル。両脇のプルムとマリーは頭を抱える。


「売られた喧嘩を買っただけだッッ! 普通に考えて何の問題もないだろうッッ!」


「いやまぁそうだけど、国民的英雄揃いのグランオルドルを野良試合で半殺しにするのは流石にまずいだろ~」


「それにねダリル、この記事の一番不味いのは貴方を団長殺しと無理やり結び付けようとしていることなのよ···· 元々、王政内部でもパッと出の貴方のことを良く思っていない人達は沢山いて、間違いなくこの記事を使って民衆を扇動するはずよ」


「だよなぁ···· 明日の御前試合絶対荒れるぞこれは? バックレた方がいいんじゃないか? ストレリチアに相談してよ」


「私も御姉様と御父様に話をするわ! 噂が収まるまで目立った行動は控えるべきよ」


ダリルの身を案じて親身になる二人。だがッ!


「·····関係ない」


「へ? 何が?」


「誰に後ろ指を指されようと関係ないんと言っているんだ。俺は明日の試合、ガナードと闘いに行くだけなんだからな」



そして迎える御前試合当日ッッ!!──

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