1-37 幼なじみは愛情深い

ロベリアという女性は底が見えないほど愛情深い──


ロベリアとその家族は元々東の隣国、オストライン帝国の住民であったが、内乱が激化しフランシアへ難民とし移り住んでいた。


だが当時のフランシア、特に国境の町のアルザーヌでは難民と地元民との摩擦は加熱し、やがて大規模な難民排斥運動が勃発。この暴動に巻き込まれロベリア5歳の時に大好きな両親、そして愛すべき弟と妹達を失った。  


暴動の過激化と全土に広がることを危惧したフィリップス国王はこれを軍を派遣し鎮圧、難を逃れたロベリアはその後出自不明の子供とし、孤児院に入り、運命の出逢いを果たす。


そこで出会ったのが一つ年下のダリルだった。両親を流行り病で亡くしていたのだが、気弱ながら優しい彼は心に闇を刻んでいる彼女に常に寄り添いそして彼女もまた心を開き初め、何時しか家族と同じように、それ以上の感情を抱くようになる。


それは同じ勇者パーティーに入ってからも変わらず、彼を常に愛し続けた。


アストロに言い寄より体を許した時も、そして犯罪の濡れ衣を着せてまで追放させた時も、全ては実力不足で今後の戦闘次第では命を落としかねいダリルを戦場から遠ざけるため、愛ゆえの行動であった。


彼女はダリルのことを良く知っていると勘違いしていた。彼は気弱ながら頑固者である故に説得は不可能であると·······


例え犯罪者の汚名を被せたとしても彼を愛し守り続け、ダリルも自分の本意を理解してくれると······


だが彼女の歪んだ想いは届くはずもなく、独りよがりの狂信的な愛情は最悪の形となって報いを受けることとなった·····


『勇者達の反乱』後、魔王陣営に参加しても彼女は苦しみ続けた。そして自己嫌悪は時を掛けて裏切り者への怨みへと変わっていき、そのはち切れそうな感情を魔王は、フレイアが見逃す筈がなかった·······



そして魔王曰く、呪印装術を施された彼女の実力の評価は



『不完全で在りながらも過去最も神が宿りし者に近づいた傑作』


であると



そして、『不完』の幼なじみの槍先は『未完』のダリルへと襲い懸かるッッッ!!!!






首を切断すべく横薙ぎにされた一閃をダリルは、接触直前で体を大きく仰け反りこれを何とか躱す。


意外な展開で気押とされてはいたが、終始警戒はしていたのだ。謁見の間の時背中に感じていた殺気のために····· ロベリアが部屋に入って来た時、彼女の体から発せられるごく僅かな血の匂いのために·····


不安定な体勢となったダリルはそのまま重力に身を任せるように後方へと離脱を図るが、彼女はこの最初の好機を見逃すはずがなくッッ!!


最速、最短で裏切り者の命を奪うべく着地と同時に床を繰り上げ槍先を前に突き出し一直線に追撃する。


だがこれは悪手ッッ!!


直線的な追撃を確認すると、ダリルは不安定だと『見せ掛け』た姿勢を持ち前の強靭な体幹で即座に立て直し、間髪入れず右手の手刀を繰り出す。


その標的は彼女の五体ではなく、


(悪いが破壊させて貰うぞ、お前の愛槍をなッ!!!)


相手に先手を取らせてと思い込ませての絡め手。完璧なタイミングで放たれたカウンターはこの勝負を決定付ける───










こととは成らなかったッッッッッ!!!!!



(ッッ!? 槍がすり抜け───)



完璧に捉えた槍先を見失ったのも束の間、五月雨突きがダリルの上半身に襲いかかるッッ!!!



(ッッ!? 薄皮一枚ッ!! 本体を狙ってあと一歩深く踏み込んでいたら、何発かは致命傷を貰っていたな······!)



出血の割には偶然にも深手を避けることはできたが、今度こそ演技なしに姿勢を崩したダリルに対しロベリアは絶妙な間合いを維持しながら不規則は速度と軌道の突き攻撃を連続で仕掛ける。



しかし!! 動きを見切り始めたダリルはこれを全て捌くッッ!!


(よしッ! 見えるぞ槍先が)


男は敢えてスキを見せてチャンスを待った、そして死闘開始から48秒後、遂にダリルにとっての最初の好機が訪れる。



ロベリアが不用意に刺突で狙ってくるは喉仏。だが、ダリルはこれに迫る槍先を左肘で下へ叩き落とすと、男は渾身の一撃を与えるべく自身の有効射程まで踏み出すッッ!!!


そして、『予期』していた通りロベリアは下へ落とされた槍先を間合いを詰める男の顎を目掛けて急上昇させるッッ!!


男はこれを理合で強化させた右腕で抑えようとするが、


「ッチ!? またか!!」


再び槍先は腕を通り抜け、ダリルは顎を全力で上に向けることでこの一撃を何とか回避ッ!!


しかし正真正銘無防備となった喉仏をロベリアが見逃す筈がなく、槍先を返し先端石突でこれを強打ッッ!!!


呪印装術によって強化されていると云えど細身の体からは信じられない程の衝撃を喉を経由して味わったダリルは、巨体を宙に浮かされベッドの上まで吹き飛ばされる。


彼女の猛攻はまだ止まらないッッ!! 休むまもなくダリルに馬乗りになると顔面を完全に破壊すべく槍を振り下ろす。


ダリルはこれを難なく避けるが、その槍先はベッドを貫きプルムの顔の前へと通過するッッ!!!


「!? うぉっ!! あっぶねぇ!!」


再び聞こえてくる、これまた憎き第三者の声に今まで無表情だったロベリアの表情がみるみる怒りに染まっていく。


「そんなところに隠れていたのねッッ!! この泥棒猫が!!!!! あなたダリルとどういう関係なのよ!!!! あんなに親しそうに話していて·····!」


「落ち着けロベリア!! こいつはおと──」


「パートナーだよパートナー!!! こいつが今夜愉しいことがあると聞いたからここに来たんだよ!!!!」


明らかにわざと紛らわしい発言をするプルム、ロベリアの怒りは更に増し絶叫と共に吐き出される。


「パートナー!?!? 私とダリルの想い出の場所で一体は何をしようとしていたの!?! もういい、ダリルの前にあなたを殺すわッッッ!!!!」




「プルムッッ!! お前少し黙れッ!! あと歯、食いしばれッ!!!」


ダリルは嘆きと共に破れかぶれに左腕を天へ向け突き出す。彼女はこれを警戒し身構えるが、この拳の標的はロベリアではなくベッドへ向け振り下ろし──



自身で加速させたマナをベッドへプルムへそして床へと『浸透』させ──



部屋全体の床を『振動』させ破壊したッッッ!!!!──

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