1-26 魔王の一人旅
──時刻不明、魔王軍本陣の巨大テントにて
「魔王さまー! 魔王さまどちらに居られますかー」
アネモネは必死に魔王を探すが見つからず困り果てていた。
「おう、どうしたアネモネ? 魔王の野郎がまた居なくなったのか」
「ぞ、ゾルトラ様·····! はい····幕僚会議になかなか来られないのでお部屋を拝見したら既に····」
「お前も毎度毎度大変だな! 前みたいにお前を困らせようと男トイレに隠れてるんじゃないか?」
「···いえ、それがこの置き手紙だともしかしたらそうじゃなさそうなので···」
「あん? チョッと見せてみろ」
ゾルトラがアネモネから取り上げた魔王の置き手紙にはこう書かれていた。
──会いたい奴に会ってくる、用が済んだら勝手に帰るので探さないで下さい──
「ゾルトラ様には何か心当たりが──、ひいっ!?」
マナを感じることが出来ない人物でも今、この男の強烈な『感情』で発せられるマナによって押し潰される感覚に陥るだろう。
「あ、あの野郎ぉぉッッッ──!!」
そう!! 男は怒っていた! 怒り狂う一歩手前まで来てしまったのだ!!
ゾルトラは理解したのだ、魔王が会いたい奴というのはダリルをさしているということにッッッッッ!!
「俺の忠告を無視しやがったなぁ゛ぁ゛ぁ゛!!?!!」
ゾルトラの咆哮と共に発せられた強烈なマナの波はアネモネとテントの中に集まっていた幕僚達に直撃ッッ!! アネモネ含め半数以上が気絶したのであった──
──ランヌ途上の街道にて
「あーあー、もうお尻と腕疲れちゃったなぁ!!
御者、誰か替わってくれないかなぁ!!」
露骨に一人言を言いながら、露骨にプルムをチラ見するベロニカ。
「だ、そうだよマリー。代わってあげて」
誰かさんと同じで、全く意に返さないプルムッッ!
「そ、そうよね! 今度は代わってあげるわ! 私、経験ないから教えてね」
また真に受けるマリーッ!!
「またこの茶番かぁぁぁぁ!!」
今度はノリ突っ込みするベロニカッッ!!!
ダリル一行の四人は早朝になるとメッサを後にして、王都の直ぐ東にある遺跡都市ランヌに馬車を使って向かうのであった。
「····ところでプルム。本当にダリルさん生きているんですか? 昨日の夜、布団に倒れるように眠ったまま未だに起きないんですけど···」
「死ぬほど疲れてるんだ、このまま寝かせてあげてくれ」
長らく大量のマナを体内に留め、しかも高速で循環状態で維持するということは自殺行為そのもの。如何に治癒魔法で怪我は粗方治しているといっても、極限迄に溜まった異常なまでの疲労感に流石のダリルも抗えなかったのである。
(ま、そうは言っても今日の夕方までには何事も無かったかのように目覚めるんだろうな~ 普通の人間なら消耗しすぎて1ヶ月は昏睡状態間違いなしなのに)
「ん?」
プルムは気がついた。首を180度こちらに向けてジト目で見てくるベロニカに!!
「····なんだよその目。前、見ないと危ないぞ」
「いや~プルムてマリー様に酷いことをしといて、よく平然としているな~と思って」
「なんだよ、そんなことを気にしてたのか? もう、許してくれてるもんな! マリー」
プルムはマリーに向かって片眼ウィンクをする。
「もちろんよ! 可愛いは正義だから!!」
そういうとマリーはプルムを堪能するように抱き締めた。
(チッッッ!! 幾らなんでもチョロ過ぎですよマリー様ッッ!!! 既にマリー様に取り入っている以上この場で追及しても不利ッ!!!後で一人になったら締め上げるか····)
そんなことをベロニカが考えてるとプルムが一人言を呟いた。
「一人になるのを期待してても無駄だぞ」
「? 何のことプルムちゃん?」
意味を分かっていないマリー。
「····プルムも耳か良いんですね。地獄耳的な意味で····」
やっぱりこいつジジイだと思うベロニカであった──
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