1-25 国防会議

辺りは日が沈んでも、水柱は立ち続けた──


「35分43秒····また、記録延ばしたね~ でもそろそろ限界だろ」 


水面から出てきたダリルは陸地に項垂れるようにしがみつき、息を荒くしながら頷く。


「流石に大分消耗したみたいだね。だから、30分クリアした時点で止めとけば良かったのに手間が掛かるな~」


愚痴を言いながらダリルを陸に引き上げると、プルムは再び治癒魔法を施し始めた。


(もっとも、本家東方世界の達人連中でも同じ事をやれと言ったら100人に1人程度しか出来ないだろうな····しかもそれをたった1日でクリアするとなると、いよいよ本物の『神が宿りし者』である可能性が高く成ってきたな)


プルムは拳握りしめ、強く想った!


(だとすれば····! だとすればアンタなら叶えてくれるかも知れない! オレの『願い』をッ! オレの『復讐』をッッ!!)



───同時刻、王都『国防会議』会場にて


「そ、それは本当か! 何かの間違いではないか!」


宰相かつ国防会議議長のダルランは、グランオルドル団長兼防衛軍司令官のベルモントに再度問い掛ける。


「いえ····· 偵察部隊による確かな報告です···· ここ王都に向かって東進を続ける魔王軍本隊は各地で分散進撃してきた別動隊と合流し始め、その規模は10万を遥かに超えるそうです···」


この言葉を聞いて国防会議に参加している他の重鎮達が一斉にざわめきたつ。


「元々の5万ですら我々の倍近くだったのに、10万相手となると戦にもならんぞ····!」


「東のオストラインは勿論、北のアルビオンにですら援軍要請を無視されたんだ、何処からそんな数と戦える兵士を揃えれば····」


「そもそも本当に全て魔王軍なのか? 我がフランシアの貴族達の軍旗もあるのでは····!?」


混乱を極める会議場、それを沈めるべくダルランは大声で諌める。


「ものども! 国王陛下の御前であるぞ!! 私語を謹まんか!」


中央に椅子に座る威厳に溢れた初老の男、国王フィリップ·ロイはずっと目をつむり家臣達の話を聞いていたが、遂に発言をした。


「ダルラン····我々に残された手段は何がある···」


ダルランはその言葉を聞くと脂汗をかき始めたが、意を決して進言した。


「恐れながら国王陛下···· 彼我の戦力比で王都を防衛するのは完全に不可能となりました···· 領土と国民を守るために我々が出来ることといえばもはや一つのみ···· 魔王軍との講和交渉のみであります」


その言葉で国王を含め沈黙する一同、全員わかっていたのだ。例え講和出来たとしても自分達高官の命が何の保証もないかとを、むしろ魔王によって抵抗分子達の憐れな見せしめにと利用される可能性が高いことを


「恐れながらダルラン閣下の戦況判断には重大な過ちがあります。我がグランオルドルと残存の勇者パーティー達が魔王の首目掛けて夜襲を仕掛ければ勝機ありかと····」 


最初に沈黙を破り、発言したのはベルモントだった。これに対しダルランは苛立ちを込めていい放った。


「貴様正気か? 本当にそんな無謀な特攻が可能だと思っているのか····!」


「可能だから言っておるです、それにそもそも講和自体成立する可能性は限りなく低いかと。現に魔王は辺境伯や地方貴族に中立を促すため自分達から信書を携えていったと報告がありますが、我々にはそのようなものが来ておりません····· 恐らく魔王はこの王都を完全に破壊するつもりでしょう、未だ中立を掲げる者達への見せしめのために···」




───会議終了後、王宮での廊下にて


「····なぜあんなことを言った! 貴様とて本心は不可能だと思っているのだろうに」


廊下を歩きながらダルランは横を歩くベルモントに語りかける。


結局、ベルモントの一言が決定的になり徹底抗戦の方針は変更せず会議は終了したのであった。


「皆の士気を必要以上に下げないため····· また『内通者』によって講和の可能性ありと魔王軍に伝われば、さらにつけこまれるのは火を見るよりも明らかです」


「····やはり貴様も内通者の存在を疑っているのか····?」


「ええ、あのアルザーヌの一件はあまりにもタイミングが良すぎます。マリー様の極秘の亡命を知っていたのは国防会議に参加していた面々と護衛作戦に参加した極少数のグランオルドルの騎士のみ···· 偶然に情報が漏れて風の噂で魔王の耳に入っていたとしても、いくらなんでも速すぎます」


「くそっ!! 防衛の目処もつかない、裏切り者もまだいる!! 一体どうすれば良いのだ····」


「お気を確かに閣下、まだ希望が潰えたわけではありません。お聞きになりませんでしたか? アルザーヌでのマリー様が新たに従えた『騎士』の活躍と王都に向かっているという話を」


「ああゴリアテ族を破り、噂ではココネオ村であのゾルトラを倒したという騎士の話しか···· 前者は目撃者も多数とのことから本当かもしれんが、後者はにわかに信じられんがな····」


「しかし、その噂が本当なら剣聖に匹敵する実力者なのは間違いありません! そうすれば我々は剣聖とその『騎士』、そしてブレイドというそれぞれが1万の兵にも勝るに劣らない強力な戦力を持っているということになります!」


「····ところでその最後の希望たる無責任男の行方はわかったのか?」


ため息まじりに問いかけるダルランに対してベルモントはニヤリと笑い答える。


「ご心配なく閣下。遂にブレイドと連絡をとることに成功しました。奴はあと3日程でこの王都に到着します」───

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