第122話  解禁 魔法学園の地下迷宮 おわり!

 倒れた黒太子を前に、ノアは勝利の実感はわかない。


 構えを解くまで、深い呼吸を


 1つ…… 2つ…… 3つ……


 そして目前の敵が起きてこないと納得した。


「勝った……」


「みんな勝ったよ」と笑みを見せ仲間たちの方向を見るノアの表情が凍り付いた。


 倒れている。 ルナもアルシュもエリカも…… 最強の生物であるはずのドラゴンですら……


「何が、一体何が起きた?」


 呆然とするも一瞬だけ。すぐさま正気を取り戻し、仲間たちの元に駆け出そうとする。だが――――


「止まれ、ノア・バッドリッチ」


 その声に逆らわず足を止める。 声の主が仲間たちの後ろに隠れているのがわかったから……


「誰だ? 私の――――俺の仲間をどうした?」


「へぇ~ 怒気が揺れているのが見えるようだ。 すごいな」


「お前、ふざけているのか? 今、俺の前で……倒れた仲間の前でふざけたのか!」


「おっと止まれ。すまない本気の賛辞さ。あと……」


「あと? なに? 悪いけど今の俺は急いでいるんだ。アンタをぶちのめすためにな!」


「落ち着け、お嬢さん。仲間は無事だよ。こっちも仲間を失うわけにはいかなかったのでね。卑怯な手で倒して人質にしてもらった」


「仲間? そこの……あれ? 今まで散々殴り合ってたのに名前を聞いてないや!」


「戦った相手の名前を知るのが重要か? まるで騎士道や武士道だな……まぁいい。その方の名前はエドワード…… エドワード・オブ・ウッドストック。俺たちと同じ転生者なら、イングランドの黒太子で有名だろう?」


「えどわーど・おぶ・うっど……え? なんて?」


「……うむ、知らないのならいい」


「まぁいいや。そのエドワードさんの仲間なら、おたくも悪魔教って事? 敵……だよね?」


「いいや。こちらにも事情があってね。俺と彼は敵だよ……基本的にはね」


「???」


「まぁ、わからないよな。それよりも、人質交換だ。互いに時計回りに動いて仲間の元に移動しようか?」


「そちらに伏兵とかは? いないって言える?」


「意外と用心深いな。そこは信頼してもらうしかない。俺が、ここに罠を仕掛けてないって言っても信じてくれるかい?」


「まぁ……今は信じるしかない状況だよね。 いいよ、人質交換といこう」


「助かる。それでは……」と姿を現した男の容姿にノアは驚く。


 一瞬、「オーク?」と呟きかけて、慌てて止めた。


 彼の顔は、豚の仮面で隠されていたからだ。


 なぜ豚? それは彼の異名が『鎧を着た豚』だからだ。


 つまり―――― 


 デュ・ゲクラン


 100年戦争においてエドワード黒太子と激戦を繰り広げた英雄の1人。


 彼は怨敵であるはずの黒太子の元までたどり着くと、彼を抱き上げ肩へ担ぎ上げる。


「うむ、確かに……それでは――――」


「待て。そんなに急ぐ事はないでしょ? ――――それで?」


「それで? ……とは?」


「アンタとはいつ戦える」


「うん、聞きしに勝る戦闘狂だ。 俺も、その気迫に釣られて戦ってみたいが……今は我慢するさ」


「そうだな」とゲクランは考える。


「この迷宮での悪魔教は潰れた。けど、実は学園に信者はわんさかいる」


「なるほど……そいつ等全員をぶっ飛ばしたら、最後にはアンタが出てくるって事かい?」


「随分と剣呑な性格だ。 ……まぁ、その通りになるわなぁ」


「それじゃ楽しみにしているよ」


「それは、こっちのセリフじゃないかな? まぁいい。それじゃ……」


「それじゃ。次は良い戦場になる事を願って」


「くっくっくっ……やっぱりイカれてるよ、お嬢さん」


そう言ってゲクランは消えて行った。 残されたノアは――――


「みんな大丈夫?」と頸動脈を触り、生死の確認。


 それから胸を腹部を見て正常な呼吸をしているを確認して――――


「気を失っているだけ……みたいだけど念のために」


 迷宮探索用の道具を取り出し、応急処置を行う。


 暫くすると……


「あれ? 私たちは……」とルナが起き上がり、


「いきなり背後からオークのような男に……えっと何をされたけ?」とアルシュ先輩。


 エリカ生徒会長を目を覚ますも、焦点が合ってない。どうやら寝起きが悪いタイプのようだ。


 ドラゴンにいたっては「むにゃ…… むにゃ…… もう食べれないよ」と寝言。


 もしかしたら、ゲクランに襲われる前に昼寝をしていたのではないか? そんな疑惑すら頭に過ぎった。


 それでも……


「みんな、無事だね? 今日はもう帰ろうか?」


 ノアたちは迷宮から日常へ帰還していった。



 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 一方、同時刻の学園の個室では――――


 「うむ、エドワード黒太子にデュ・ゲクランか。転生者の投入まで始めたとなると――――」


 「――――」


 「うん、これは全面戦争になる」


 「――――」


 「あぁ、そうだね。次は行くさぁ……この俺がね」


 ギア・ララド・トップスティンガー。この世界において真の主役たる彼が宣言した。


 ――――次は自分の出番だと。


 そして、彼を会話をしている謎の声は――――


 「――――」と、今もギアにしか聞こえない声で話かけている。


 彼女の正体は、一体……



 ―――――――――――――――――――――――


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