第123話 ギア・ララド・トップスティンガー 動く

 「やぁノアさん、少し話をしてもいいかな?」


 早朝、爽やかな男に話しかけられた。


 「ん……ギア……ララド・トップスティンガー……」


 「うあぁ、フルネームを覚えてくれてたのかい? うれしいね」


 「それで、どういう要件?」とノアは素っ気無く聞く。


 ノアは目前の少年が苦手だった。 彼と話せば、この世界の正体に思いを馳せるからだ。


 この世界の正体はノアが転生する前ではエロげーだった。


 より正確に言えば――――『どきどき純愛凌辱シリーズ 魔法学園のエッチな私たち』というタイトルのゲームを再構築したような世界。


なぜ? 


 異世界……科学的に言えば素粒子の重ね合わせの世界。 同時並行的な世界だったとしてもエロげーの世界なんてあり得るのか?


 全ては幻。 実は死にゆくノアの前世が、間際に見ている夢ではないか?


 ノアにとって、そういう不安の象徴。それがギア・ララド・トップスティンガーという男だった。


 しかし、彼にはそんな事情は知らない。 いや、知った事ではないだろう。


 だから、人様のパーソナルスペースにずかずかと入り込んでくる。

 

 「ノアさん、ダンジョンに悪魔教の残党が残っていたって報告したらしいね」


 「――――っ! なぜ、それを? 生徒には緘口令が出ているはず……」


 「蛇の道は蛇ってね」


 ノアは言いかけた言葉を止めた。


 『蛇の道は蛇』 それはこの世界にはない言葉。ノアの前世の世界で使われていた言葉だったからだ。


「お前……結局は何者なんだよ?」


「いやいや、そんな大したもんじゃないよ……俺はね」


「それじゃ、貴方以外に大したもんがいるみたいだね。背後に組織でも?」


「まさか! そこまで意図はないよ」と彼は冗談を聞いたかのように笑う。


しかし、ノアは笑う気にならなかった。ギアは、そんなノアに近づき、


「俺はね、ダンジョンの一層に悪魔教残党がいたって事は……裏切り者がいるんじゃないかって考えているんだ」


「裏切り者? なんの事だ」


「うん、バッドリッチ侯爵が率いる軍の内部に、この国の裏切り者がいる」


「お前――――」


「いやいや。もちろん、軍部だけとは限らない。枢機卿の配下だって可能性はあります。そうじゃないと――――どうして悪魔教は軍部の調査を潜り抜けて、ダンジョンに潜み続けれたのか? ノアさんも不思議でしょ?」



「わかった。詳しい話は、放課後に……邪魔が入らない場所をこちらが用意しよう」


そう言って2人は別れ、放課後――――


「どうして、僕の部屋でそんな話をしようとするかな!」とアルシュ先輩。


「まぁまぁ、学園で自由に使える個室ってここしか知らないので」


「別に自由に使えるわけじゃないよ! 魔剣研究部の部長だからね! 執務もあるんだよ!」


「まぁまぁ、アルシュ先輩だってもう他人事じゃないでしょ? きっと悪魔教に目を付けられているんだろうなぁ。重要情報があるとないじゃ自分の身を守る方法に違いが出ると思うなぁ」


「だ、だったら、エリカちゃんとかルナちゃんも――――」


「もう来ているわよ!」とエリカ。


「遅れてきました」とルナも顔を出した。


そして来るなりエリカ生徒会長はアルシュ先輩に向かって――――


「アルシュ、もう覚悟を決めなさい。 遅かれ、早かれ、貴方も学園を代表をする者なら悪魔教と大立ち回りをする運命なのよ。教えてあげなさい……私の学園に手を出した者の末路を!」


「ひぃ! エ、エリカちゃん……私の学園って、この学校を自分の物って思ってない」


「思っているわよ? え? 生徒会長って学園の支配者と同じ意味なのよ? 知らなかったの?」


「いや、違う! 絶対に違うし、生徒会長が持ったらダメな危険思考だよ!」


そんなアルシュ先輩の抵抗も虚しく……コンコンとノックが響いた。


そして、ドアから入って来たのはもちろん、ギアだった。

 

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