第59話 地下最強決定トーナメント 決勝戦

 そして物語は冒頭―――第1話に戻る。


 地下最強決定トーナメントの最終日 決勝戦。


 驚くべきは、決勝の対戦相手は三国時代の武神 関羽だ。


 ボクシングやレスリングといった西洋格闘技を駆使してくる武神。


 考えれば同じくらいの年月だ。


 シルクロードが誕生したのが紀元前2世紀。


 中華に西洋文化は入り込んでから三国時代まで約400年の年月。


 400年? 日本で西洋文化と言えば……織田信長か?


 関ケ原の戦いが1600年なわけだから、信長の時代は、それより少し前だ。たしか、1582年に死んだのか?


 まぁ、それから約400年後が現代日本なわけだ。


 同じ400年だ。 関羽たち三国志の武将たちが生きた時代は、西洋文化を取り入れて400年……


 まぁ、理解度は違うとは言え……


 そんな事をノアが考えていると関羽が体勢を低くする。


「またタックルか!」


 まるで体当たりのような関羽のタックル。ノアは冷静に対処して、


「もう一度……離れ際に膝を叩きこむ。確かな手ごたえあり!」


 しかし、関羽は平然としてボクシングの構えを取る。


 「なんて、恐るべき打たれ強さタフネス!」


 それもある。しかし、2人を見比べれば大きな差がわかる。


 関羽 2メートル16センチ。 体重は100キロを大きく超えている。


 一方のノア・バッドリッチ。 


 身長1メートル46センチ 体重は38キロ。


 「流石に体格差が、酷過ぎるよね?」とノア。


 その体格差、打撃でダメージがどれほど通るかも怪しい。


 しかし、ノアには、その体格差を覆す技があった。


 それは未知の技々だ。 


 合気道独特の体捌きで打撃を避け、接近しては八極拳の強烈な打撃。


 組み付かれれば柔道や合気による投げ技。


 そして、寝技は柔術。


 だが、ノアが地下闘技場の舞台に立って、4試合を戦っている。


 初戦はエルフのカポエラリスト 憤怒のノバス


 二戦目はトーナメントの王 異世界相撲のウィリアム・マーシャル


 三戦目は変幻自在の打撃家 リザードマン ユタ・ラ・プトル


 そして、四戦目は鉄腕ゲッツ


 この4戦でノアの闘法、格闘術、戦術は研究されている。


 たとえ、八極拳の強烈な打撃をまともに受けられず、


 たとえ、合気の神秘のような投げは防げずとも、


 たとえ、柔術が使う寝技のポジショニングに対応できなくとも、


 ノアを相手にした時、やっていい事。やってはいけない事は研究され尽くしている。


 加えて、関羽が選択したボクシングとレスリングの混合した戦い方。その相性はノアにとって最悪と言える。


 関羽の長いリーチから繰り出される素早いジャブ。そして右のストレート。


 ノアが徐々に防戦一方になったタイミングでタックル。


 これを徹底的に繰り返されると、リーチの短いノアでは接近しての打撃も、掴んでからの投げも封じされることになる。


 「――――やり難いってれレベルじゃねぇぞ!」とノアは悪態をつく。


 ガードを固め、ジャブをやり過ごし――――


 「ここだ!」


 右ストレートが放たれるタイミングを読み、ノアは前に出る。


「フン!」と懐に潜り込み、震脚からの打撃を――――


「――――くッ! できないか!」


 強引に潜り込んでも、ショートフック。 それが体ごと吹き飛ばされそうなほどに強烈。


 再び剥がされるように間合いが広がる。  


 するとジャブのコンビネーションからのタックルが飛んで来る。


 ノアが見せる馬乗り――――マウントポジション対策として関羽が用意したのは、これだ。


 リーチの長さを利用して一方的な打撃。それからタックルで寝技になってもノアの上をキープし続けて体力を消耗させる。


 奇しくもそれは、近代総合格闘技でもボクシングとレスリングを基本とした戦い方として1つの完成形と考えられている。


 一方的に迫られるノア。 体力、体格、腕力の差。 


 その差はあまりにも大きく。いずれノアは――――


 だが、ここでノアにも変化も訪れた。

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