16
夕闇が迫るなか、浮かびあがるのは純白のシーツ。
すべてが朽ちる廃墟の空間で唯一無垢なそれは、これから行われる淫猥な儀式の祭壇でもある。
これは生きるために必要なことなんだと、何度も自分に言い聞かせながら制服を脱ぐ。下着姿で立ち尽くすわたしの胸に当てられた銃口が、ひんやりと冷たい軌跡を残して一直線に下腹部へと向かってゆっくり下ろされる。
恐怖や不快感に負けてはいけない。
自分を失わずに、ただ耐える。それが今すべき事なんだ。
「綺麗だよ加奈子、とっても綺麗……」
膝立ちになったヤスカちゃんが、お臍まわりに何度もキスをしながらつぶやく。
「横になって……わたしも脱ぐから」
命ぜられるまま、ベッドの上に横たわる。
裸になっても──セックスの最中も拳銃を手放さないつもりなのだろうか。
体格はさほど変わらないし、肩を怪我してるとはいえ、ヤスカちゃんに比べれば軽傷だと思う。隙を突けば、拳銃を奪える自信がわたしにはあった。
けれども、ヤスカちゃんが脱いだのは
「こんなやり方じゃ、ちっとも燃えないんだけどね。わざわざゲームをする意味がないのよ……やっぱり、あの頃が良かったなって……いつも思うんだ……」
耳朶や首筋のキスに耐えながら、訳がわからない話を聞かされ続ける。
なんとか上になりたいけど、性の知識に乏しいから、不自然な動きを少しでもすれば怪しまれて撃ち殺されてしまうだろう。感じている素振りだって、やるだけ危険で無意味だ。
このままじゃ、どんなタイミングで殺されるのかもわからない。
一体どうすれば──涙ぐむ目で虚空を見つめていると、あの幽霊の女が重なり合うわたしたちを見下ろしていた。
「わたしの代わりに……この子を抱きしめてあげてちょうだい。あなたがこの子を救うのよ」
救う……ヤスカちゃんを?
わたしがどうして?
助けてほしいのは、わたしのほうなのに。
だけど、どうすることも出来ないでいたわたしには、それを断る理由が見つからなかった。
下からヤスカちゃんを抱きしめる。
一瞬だけ動きが止まったように感じられたのは、気のせいじゃないかもしれない。
「加奈子……」
ヤスカちゃんもわたしを抱きしめる。拳銃は握られていなかった。
「ヤスカちゃん……」
そのまま身体ごとぐるりと反転させたわたしは、今度は自分から口づけを交わす。
「ごめんね」
そうつぶやいてから、両手で首を強く絞めた。
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