6
今って、何時頃なんだろう?
ふと気になった。
学校に行ってないから、
それは、さらわれたほかの四人の関係者たちも同じで、今頃みんなのスマホの着信履歴が大騒ぎになっているはずだ。
〝ここにいるよ〟って、大声で叫んでも届かないってわかっていても、そうせずにはいられない気持ちでいっぱいだった。
──コチン!
どこからか小石が足もとに飛んできて跳ねた。
(誰かが……投げた……?)
投げられた軌道を探れば、左斜め後ろにある廃墟の中に唯織さんの姿がうっすらと見えた。
思わず声が出そうになってしまったのを堪えて、念のため、まわりに誰かひそんでいないのかも確認してから、そちらへと駆け出す。
「唯織さん!」
「加奈ちゃん、無事だったんだね」
「はい! でも、ミリアムに右肩をやられちゃいました」
「そうか……ボクも左腕が折れているかもしれない」
「そんな!? 大丈夫ですか!?」
そう言ってから、大丈夫なわけはないって気づいたけど、もう遅かった。
「ありがとう、なんとか大丈夫だよ。だけど、お互い足をやられなくてよかったよ。走って逃げれなくなるからね」
「あっ」
「ん? どうしたんだい加奈ちゃん?」
「わたし、逃げるときにミリアムの脛を木材で……たぶん彼女、歩くのがやっとだと思います」
「そいつはいい。ボクらは片手しかうまく使えないけれど、走ることは出来る。でも、あっちの一人は走れない。戦うときには、こちらのほうが有利だよ」
戦う──つまりそれは、殺し合うって意味だ。
「そうだ、加奈ちゃん」
唯織さんが振り返りながら、吹き抜けになっている二階部分の通路を指差した。ショッキングピンクの、袋のような物体が置いてあるのが鉄柵ごしに見える。
「あれって、犯人が言っていた食料じゃないかな?」
「あ! 絶対にそうですよ!」
「でも、あそこまで行くには、ひとつしかない猿梯子を登らなきゃいけないんだ。もしもその最中、あの二人に見つかってしまえば……」
逃げ道が無いから、そのときはアウト。
ゲームオーバーになる。
「それじゃあ、わたしが取りに行きます。唯織さんはここで見張りをしててください」
「……いいのかい?」
「ええ、大丈夫です。それに、怪我ならわたしのほうが軽いですし」
実際のところは自分でもよくわからないけれど、腕を骨折している唯織さんに登らせるわけにはいかない。
精一杯の笑顔を──つくり笑いをしてみせる。
唯織さんも笑顔を返してくれた。
「あーっ……この梯子って、最初の段が高いんですね」
「そうだね……加奈ちゃんの頭よりも上だね。そうだ、ボクが馬になろうか?」
「平気ですよ、たぶん……」
とは言ったものの、右肩には不安しかない。とりあえず飛んでみようかなって逡巡していると、唯織さんのほうから四つん這いになってくれた。
「すみません、ありがとうございます……いっ……」
やっぱり右手を使うのがキツい。
それでも歯を食いしばりながら、猿梯子を登る。テンポ良くはいかなくても、人間やれば出来るものだ。
「加奈ちゃーん」
「えっ? はい?」
「見せパン穿いてるんだねぇー、残念だなぁー」
「あははは……
よし、登りきった。
このままキャットウォークを歩いていけば、あの袋が──って、あれ?
無い。袋が消えてる。なんで?
地上を見れば、唯織さんの姿も消えていた。
「食料なら、ここよ」
「榊さん……!」
榊さんが袋を持っていた。
袋には長い紐が付いていて、どうやらわたしが登りきる頃合いで引っ張って動かしたみたいだ。
これって……まさか……罠?
「そんな……榊さんはミリアムとカップルのはずじゃあ……」
「あー、そうね。第一ステージでは、ね。けれどもアイツさぁ、足を怪我しちゃって歩けないのよ。そんなんじゃ文字どおり足を引っ張るでしょ? だから、この先のことも考えて唯織に乗り換えたのよ」
「そ……」
「そんなのルール違反だって? 乗り換え禁止って言われた? 言ってないし聞いてないわよね?」
「はい……聞いてない……です」
もう最悪だ。
榊さんと唯織さんが、カップルになってしまった。
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