教育の主幹
教育とは一種の洗脳である。これは、大人になれば大抵の人が気付く教育の方向性に対する可能性であり、危険性である。
だからこそ、“保護者”たちが、どのように子供を見守り、時間をかけて寄り添っていくのかが重要なのだと、改めて気づかされたのが、有川ひろさんの倒れるときは前のめり ふたたびである。
前巻もであるが、本を通した子供への影響をビジネスライクに、時には、先達の目線から捉えているのが、所々コラムとして挙がっており、ふと考えさせられる。
例えばこんなことである。
日本は義務教育を7-15歳の小学校から中学校までとしているが、事実的に、保育園から大学にかけて、国家資格を持つ人物に子供を委ねる判断をしている。
しかし、初等、中等、高等教育の段階では、外部の民間企業である私塾に委ねることも、当たり前になっている。
現代の“子供”たちは、“学力”を上げることに時間を割かれる時代なのだ。
私はここで、一切、“教育”という言葉を使っていない。
理由は二つある。
一つは、教育とは学力だけではなく、礼儀、協調性(コミュニケーション能力)、体力、生活知識、音楽性など、その人が保護下から抜け出した時に、一人立ちし、自立できる能力につながる基礎を持たせることだからである。
そして、これは、資格を要する専門家だけで培えるものでは到底ない。
専門家は知識を伝えること、協調性や体力増強を促すことはできる。要は伝達者なのだ。
どう受け取って、それを実践して、身につけていくのか。
それは本人に、それを本番で実践させ、間違いを訂正して、練り上げる手助けを行う保護者、もしくは、自分の鏡とたり得る同等の存在が必要である。
つまり、間違いを見せられる甘えられる人間が必要なのだ。
それは、専門家の集まる、学校では不十分なのだ。
なぜなら専門家はあるまでも、給料に準じた仕事を行い、組織的なルールに縛られた行動のみが許される、一種のビジネスの場なのだ。
学校は、大人にとっての職場と同じで、子供にとっても、本来の自分を出す場ではない。
社会的な自分を養う場なのである。
“教育”を、身につけるとは、社会的な自分という一面を作り上げることと、自らの能力を底上げする必要があるのに、一面だけを磨き上げて十分といえるだろうか。
第二に、大人は子供に無垢さを無意識に求めて美徳としている。
無垢さを美徳とし、大人の望む“正しい”将来に導くであろう内容を教え、無垢さを失わせるであろう内容からなるべく遠ざけようとしている。
要は、現実からなるべく離れさせておきたいのだ。
それは、暴力であったり、性的表現であったり、あるいは、物理的な危険からであったりする。
そういえば昔、私が子供の頃はこんな行事が小学校であった。
私の小学校は、すぐ後ろに大きな川が流れていた。(子供心に大きい川だったので、大人になって見てみたらそこまでの大きさに見えなかったのは、私が大きくなったのか、川の水が減ってしまったのか。)
毎年夏になると、親と子供が学校に集まり、複数の組に分かれて、竹やベニヤ板を各々の形に切り、最後は足となる発泡スチロールを複数紐付け、イカダを作った。
プールに浮かべ、テストをして、救命ベストをつけて、そのイカダに乗り、プールで試乗してから、プールにジャンプ。
服を着たままの状態で、救命胴衣の扱い方を学び、ビシャビシャになって家に帰る。
その後日、実際に裏の川に、イカダを歩いて運び、小学生たちだけで、イカダを漕ぎ、上流へ遡って帰ってくる。
その間にイカダの上では組ごとにクイズを作り、イカダの上で問題を紙に起こして、岸辺に待つ先生や保護者、他の生徒たちに出題し、クイズの正解率を競ったりする。
実はこの行事は今や廃止され、川への通路も全てフェンスで遮られている。
一切隔離されたのだ。
ひどく不思議なのは、危険源は変わっていないにもかかわらず、危険性は世論の主観により変化する。
発言権は誰にもあるが、知らず知らず与えられた危険からの学びを、認識しているものが少なく、それを一種の導き方にと認めるものは少ない。
導くものは自ら相手を変えることはないが、相手に多くを経験をさせ、相手に変化をさせる機会を与えるものである。
危険に対しては、それに気づくヒントと危険を予知させる知識を授ける。
導くものが選択肢を与えるのではなく、相手に選択肢を作り出させ、選ばせる自由がある。
すぐに答えはあげない。
なぜなら、その答えではなく、その過程で感じ取り、気づくことにこそ、教育の根幹はあるのだから。
あくまでも理想である。
性善説に基づく甘い考えである。
だが、こういう大人になれたなら、子供な自分も、もう半分の大人な自分を認められる気がするのである。
狭い世界で生きる自分には、周りを導くにはまだ自己教育が必要そうだし、うつらうつらと考えるだけの自分では、生徒脱却は出来なさそうである。
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