OL、賞金首になる

ダンジョンの再攻略からひと月ほどは特に何事もなく、街の人と会話したりお姉さんたちに囲まれたりと平和に過ごしていた。

再攻略によりさらにLVも上がり、もう手加減しても人外なことに変わりはないと気が付いたので、一般人のふりは諦めることにした。

街を散策し美味しいものを楽しむという、元の世界では出来なかった普通の休暇を過ごすかのように日々充実した生活だった。


ちなみにステータスは訳が分からない数値になったので、あまり見ないようにしている。


「ステータス」

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 クレイシ ミヤビ

 転移者

 人間


 職業:勇者


 LV:68 → 144

 HP:763000 → 1549000

 MP:1430000 → 3189000


 体力:98400 →  217800

 知力:167200 → 346200

 精神力:138900 → 284600

 耐久力:114000 → 248900

 俊敏性:147800 → 295000

 幸運:100


 スキル:

 言語理解

 剣術LV9 → LV10

 槍術LV7

 魔力操作LV10

 全属性魔法LV10

 肉体強化LV9

 気配察知LV10

 隠蔽LV10

 毒耐性LV10

 精神耐性LV10

 空間操作LV10

 鑑定:LV10

 無詠唱


 女神の加護

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もう人にいったら頭がおかしいと思われるような数字の羅列に、考えることを放棄すること決めた。



「おっ、また変わったもん食ってんな?」

「ミヤビ様、相席よろしいでしょうか?」

私が厨房にいって元の世界の食べ物を再現してもらっていると、かなりの頻度でステファンたちがやってくる。どこかで見張ってるのかもと疑うほどだ。


「あーこれ?魚介をフライにしてもらったの。これと冷えたワインでちょっと一杯が美味しいのよね」

「フライ?その茶色いのがそうなのか?」

「ほう、そのソースも初めて見るものですな」


「欲しいんだったらそういえばいいのに、たくさん作って夕食に出すって言ってたからいまなら少し分けてもらえるかもよ」

「おっ、それは是非にだな」

「お坊ちゃまのものもお願いしてまいります」

セルジオが厨房に向かうが、その足取りは軽いものだった。


「はあ、ステファンって最初は爽やか風な感じだったのに、いまじゃただの食いしん坊キャラだよね」

「ミヤビがそれを言うか?毎日のように見たことない料理を作らせて酒飲んでるじゃないかよ」


「私は最初から好きなようにやってるじゃない?今は美味しものが食べたいから食べてるだけ」

「そういやそうだな興味があれば突っ走るが、興味のないことには一切動かないもんな」


「そういうこと、やっと平和に過ごせるようになったんだもん。ちょとくらいいいじゃない」

「まあ、最初のころと比べたら遥かにいいのは間違いないよな」


そこにセルジオが皿を抱えて戻ってくる。乗っている料理はミヤビのものと同じだがその量は倍以上あった。さらにワインとビールも持ってきており、このままここで飲む気満々である。

「セルジオさんも、ずいぶん変わったわよね」

「ああ、昔は食べるのも別でときっちりしてたんだがな」

「このような場所では別々に食事を頂くよりも、ともに食卓を囲む方がよろしいと考えを改めました。それにミヤビ様とお坊ちゃまをふたりきりにするのは心配ですので」


「なるほどね、たしかにこんな可憐な美女と、汗臭い男が一緒だと心配になるわよね」

「あ、汗臭くねぇだろ!ちゃんと昨日風呂に入ってるぞ」

「昨晩は入られましたが、今朝はそのままでございます。ご婦人と食事するのであれば、先に汗を流して清潔にしておくのが礼儀かと」


「セルジオさんはわかってるわよね。ステファンももうちょっと気を付けた方がいいわよ」

「うるせえよ、これでもそれなりにモテてるんだよ」

「ほう、その様な女性が居られるのですね。是非ご紹介いただきたいのですが」


「そうよね、ぜひ連れてらっしゃい。それにそんな方がいるのに私とこうしていてもいいの?」

「くっそぉ、悪かった。嘘をつきました。そんな女はいません」

「お坊ちゃま、見栄を張るのもほどほどがよろしいかと」



ミヤビ謹製の海鮮フライをあてに、ここ最近では定番となった酒盛りを始めたところに駈け込む男がいた。


「あ、姐さん!大変です、ギルドに姐さんの捕縛依頼が!」

知らせを聞いて急いで走ってきたのだろうその冒険者は、ミヤビを見つけるなり嫌な情報を伝えてきた。


「はあ?どいうことよ。なんで私が捕まえられないといけないわけ?」

「こないだの領主の件じゃないのか?」


「は、はい、依頼は帝国からとなっていました。領主殺しの犯人を捕縛するようにという依頼です」


「で、どうなるわけ?」

「依頼を見た馬鹿な冒険者がミヤビを捕まえにここにやってくるってことだ」

「この街の者であれば、そのような自殺行為には及ばないでしょうが、他の街の冒険者からすれば女性一人捕まえるだけの簡単な依頼と思われるでしょうな」


「ギルマスは、依頼の連絡を受けて掲示板に貼りはしましたが、誰もそれを受けることもなく、どこかの馬鹿がやられに来るだけなのにという感じでしたね」

「まあ、ここの冒険者なら当然だろ。ミヤビに逆らおうなんざドラゴンにソロで挑むより無謀だって身に染みて知ってるからな」


「なんで私とドラゴンが比べられるのよ!あんなの大きなトカゲじゃない、失礼よね」

「ミヤビ様、突っ込む場所はそこではないかと…」


「じゃあ、馬鹿がそのうちやってくるってことね。ばらばらに来られるとめんどくさいわね…」

「危ないじゃなくて、めんどくさいんだな…」

「ギルマスに話を通して、定期的にミヤビ様がその愚かな者たちと戦うようにすればどうでしょう?冒険者ならこの街につけばまずギルドに顔を出しますから、そこで伝えてもらえればよろしいのでは?」


「それならまとめて相手できるから、ちょっとはましかな?でもなんで私がわざわざ相手しないといけないんだろ、めんどうよね」

「でも、飯時に突っかかってこられるよりいいんじゃね?」

「そうですな、粗暴な者なら周りの迷惑も考えず突っかかってくるでしょうからな」


「はあ、仕方ないか…、じゃあ悪いけど今の話をギルマスに伝えてもらえる?」

「は、はい、姐さんのご命令とあらば喜んで!」

「悪いわね、お駄賃ってわけじゃないけどこれ持っていきなさい」

ステファンの前にあったフライが山盛りになった皿を冒険者に渡す。


「おい!それは俺の…」

「うるさい!また頼めばいいじゃない。じゃあよろしくね」

「はい!姐さん、ありがとうございます!」

皿を大事に抱えて男はまたギルドに向かって駆け出して行った。


「さすがにドラゴンの装備を配っただけのことはありますな、冒険者たちはミヤビ様の従僕のようです」

「さっきの人も身ぎれいにしてたし、ばらまいた効果はあったみたいね」

「俺のフライ…」



~~~~~~~~~~



「で、嬢ちゃんはまとめて相手をするからってことで、こっちに丸投げしてきたってことか?」

「ま、まあそういうことになりますよね…」

ギルドに戻った男から話を聞いたギルマスは、ミヤビの無茶ぶりに苦笑していた。


「たしかに街中で騒ぎを起こされるよりはマシか…だが、いちおう嬢ちゃんはギルドへの捕縛依頼対象なんだよな…しかたない、なんとか上手いことやるしかねえか」

「実際どの程度来ると思います?」


「賞金額が金額だからな…金貨1000枚生死は問わずってのは、やばい奴らも参加しかねんな。とりあえず100や200じゃきかないだろうってとこだな。帝国中の間抜けが全員ここに集まるだろうよ、めんどうなこったな」

「でもそれだけの冒険者が姐さんにやられちまっても大丈夫なのか?」


「大丈夫ではないな、だが目端の利くやつなら嬢ちゃんのやばさに気が付いて逃げ帰るだろうし、気づかないようなバカはいずれどっかで死んじまうだろうから結果は同じだろうよ。何より冒険者は自己責任だ、そこまでギルドが面倒を見ることは無いな」

「まあ、そうなるわな。姐さんに護衛なんざ要らないだろうし、俺達は街で馬鹿をやる奴がいないかぐらいは見てまわらせてもらうよ」


「そうしてもらえると助かる」

「別にギルドの為って訳じゃねえよ、姐さんはそういうのが嫌いだろうからな、姐さんの為だよ」


「あと、このフライってのか?もっと無いのか?」

「…姐さんからのご褒美だったのに…」

男が気が付いたときには、さらに山盛りあったフライはギルマスの腹の中に消えていたのだった。



~~~~~~~~~~



帝国内の各地の冒険者ギルドでは、貴族殺しの捕縛依頼が張り出されると多くの冒険者がざわめき立った。対象は女ひとりで生死は問わず賞金が金貨1000枚などという、とてつもなく美味しい依頼であるためだ。

金貨1枚ですらほとんど見る事のない低ランク冒険者たちにとってこの依頼は、ノーリスクでの一獲千金のチャンス以外の何物でもなかった。

たかが女ひとり捕まえるだけで金貨1000枚、その内容に色めき立った冒険者たちはこぞってドルアーノの街に向かっていく。


だが少し知恵のまわるものは、この依頼の異常さに気が付く。貴族殺しは確かに重罪だが、女ひとりの捕獲に対する額として金貨1000枚は明らかに多すぎる。おそらく依頼に書かれていない何らかの理由があり、それがわからないまま手を出すのは失敗しに行くようなものだと。依頼の失敗、最悪の場合それは死を意味する。賞金は魅力的だがまずは金に目が眩んだ冒険者たちの結果を見てからでも十分間に合うと考えていた。


そして様子見をする者の中には、Sランクの冒険者も含まれていた。彼らは金貨1000枚よりも、その対象の女性に興味を持つ。ただの一般人ならば、そもそもこのような依頼が発生するわけがない。つまり領主の一族や街の衛兵では確保できなかったという事を依頼書から読み取っていた。Sランクの自分自身でもそのような状況で無事に生き延びることが出来るかと考えると、おそらくこの対象の女性は自分と同等かそれ以上の実力を持っている可能性がある。

だが、ここで危険だから手を引こうとは考えないのが冒険者という生き物である。これまで把握していなかった強敵の可能性に興奮し、いかにしてその女性と戦うかを考え始める。そしてまずは情報収集と、ドルアーノの街に彼らも向かうのであった。


帝国各地からドルアーノの街に向かう大量の馬車が見られるようになるまで時間はかからなかった。

彼らのうち何人が生きて元の街に戻ることが出来るのか…。だが彼らは失敗することなどかけらも考えず、周りの冒険者たちを出し抜くことしか考えていなかった。



~~~~~~~~~~



「ねえ、賞金に目が眩んだ馬鹿はいつごろ来ると思う?」

フライを追加してもらいほくほく顔のステファンに尋ねてみた。


「そうだな…一番近い町からも来るだろうから早ければ2日後ぐらいじゃないか?」

「やっぱりめんどうよね…。どうせ不潔で低能な奴らばっかりなんでしょ」


「この街の冒険者は身ぎれいになったからなぁ。ここと比べるなら間違いなく不潔な奴ばっかりだろうな」

「…ちょっとギルドに行ってくるわ」


「おい、ひとりで大丈夫か?ギルドと交渉するなら付いて行くぞ?」

「どっちでもいいけど、来たいならくれば?でもその山盛りフライはどうするの?」


「うっ…持って行って歩きながら食う!」

「お坊ちゃま…お行儀が悪うございます」


「じゃあ、ギルドについてから食う!それならいいだろ!」

「そんなに私と一緒に居たいんだぁ?」


「ち、違う!ミヤビをひとりにしたら、何するかわからんから保護者代わりだよ!」

「失礼ね、話し合いぐらい私だってできるわよ」


「いいだろ!とりあえず行くぞ」

いつの間にかフライを籠に詰めたセルジオも加え、3人で冒険者ギルドに向かう。



「で、何を交渉するつもりなんだ?」

「交渉なんてしないわよ。ギルドがどう動くのか確認しに行くだけ。そもそもギルドがこの依頼を管理してるんでしょ?なら私の敵に回るかどうかは知っておかなきゃね」

「ミヤビの敵に回る度胸はないだろ…」


「それならそれで、お互いの立ち位置は明確にしておかないとね」

「何を考えてる?」


「いちいち相手しなくてよくて、無関係な人に迷惑かけない方法よ」

「そんなことできるのか?」

「それも確認しに行くのよ」



冒険者ギルドに着くと、ギルマスを呼び出す。そもそも冒険者ギルドにミヤビは属していないのだが、問題なくギルマスは来てくれる。

「なんだ嬢ちゃん、結局自分でも来たのか」


「ええ、まずはその依頼だけど帝国が依頼者なのよね?その場合このギルドの立ち位置はどうなるの?」

「ああ、そういうことか。冒険者ギルドは基本的によほどのことがない限り依頼は受け付けることになっている。だが、その依頼を冒険者が受けるかどうかまでは関知しないんだ。そして個々の依頼についても関与しない、つまり嬢ちゃんが俺の目の前に居ても捕縛する義務は発生しないんだ。もちろん捕縛して賞金をもらうことも出来るが、少なくとも俺はそんな馬鹿な事はするつもりはない」


「つまりギルドは依頼を仲介するだけで、どっちの味方でもないってこと?」

「ああ、そういうことだ。依頼ひとつひとつに関与してたらギルドの業務が回らなくなるから当然だな」


「もうひとつ、この依頼でここに向かってる馬鹿はどうやってここまで来るの?」

「そりゃあ馬車だろうな。おそらく大量の冒険者が動くだろうからギルドから馬車を貸し出して詰め込めるだけ詰め込んでここにやってくるだろうな」


「じゃあ、ここに来るギルドの馬車はその馬鹿どもって考えていいの?」

「そうだな、この状況でギルドの馬車を使って来るのは依頼を受けた連中だけだろうな。この状況でダンジョン目的の奴らがここに来るとは思えんからな」


「ありがと!それが知りたかったのよ」

「おい、嬢ちゃん何するつもりだ?」


「先手必勝、不潔な奴らを見ないで馬車ごとやっちゃおうかなぁって?」

「…鬼だな、嬢ちゃん」


「不潔な馬鹿たちは、私を探すとか言いながら街で無茶苦茶しようとか考えてそうじゃない?それなら街に入れなきゃいいかなって」

「まあ依頼を受けてこの街に来ること自体が、嬢ちゃんへの敵対行為ともいえるからな…。一般人を守るためのギルドの規約が、こんな形で使われるなんて想像もしてなかったな…」


「でしょ?一般人のか弱い私は、冒険者に襲われそうになったから反撃しちゃった、って感じなら問題ないんだったよね」

「一般人と、か弱いの言葉の定義を全面的に見直す必要はあるがな…。ギルド規約上問題にはならないな」


「なあギルマス。規約はわかるんだが、あんたの立場としてこんな冒険者を大量に失うような行為に手を貸して大丈夫なのか?」

「ああ、問題ない。俺はギルマスとしてこのギルドとこの街を守るのが仕事だ。よその街から来た無法者を討伐すると考えりゃ問題どころか褒められるぐらいだ。それにやってくる馬鹿も冒険者なら自己責任なのは理解してるだろうよ」


「依頼に関与しないってのはそういうことも含んでるんだな。まあミヤビのことを事前に調べもせずにやってくるんだ、何があっても自己責任てのも間違いではないか」

「そういう事だ、正直なところこの依頼には迷惑してるんだ。この街を戦場にするつもりかって受け付けた馬鹿に怒鳴ってやりたいぐらいにはな」


「私としては、ここのギルドが敵じゃないって分かればそれでいいわ。べつに敵に回ったならそれはそれでどうにでもなるだろうけど」

「嬢ちゃん勘弁してくれ、エンシェントドラゴンを瞬殺するような奴に歯向かうなんて馬鹿な事をする気はない。それにとんでもない装備までもらってるんだ、この街の冒険者が嬢ちゃんに歯向かうことはありえないだろうよ」


「まあ平和なのがいちばんよね。ステファンから聞いたけど早ければ2日後にはやってくるんでしょ?なんか接近がわかるような魔法とかってないの?」

「索敵用の魔法ならあったはずだ、かなり珍しいらしくて俺も見たことはないが魔物が近づいたらわかるらしいな」


「ああ、ダンジョンで使ってたやつかな?ならあれをちょっと弄れば近づいてきたらわかるわね」

「嬢ちゃん、索敵も出来るのか?とんでもねえな…」


「ダンジョンで周りを気にしてたら何となく使えるようになったのよね。マップもわかるようになるし結構便利よ」

「何となくで使えるって…やっぱり嬢ちゃんはとんでもねえな…」

「まあ、ミヤビだからな…」


「人を何だと思ってるのよ?大したことじゃないわよ魔法なんて」

「いや、そもそも魔法を使えること自体が貴重なんだ。それも一部の属性しかつかえないなんて当たり前の話だ。嬢ちゃんみたいに何となくで魔法を使われたら、他の魔法使いの立場がねえな」

「だから、ミヤビだからって納得しているんだよ…」


「もういいわ…。私が異常みたいに言われるのは傷つくんだからね」

「…すまないな…。だが一般的な冒険者や魔法使いのレベルを知っておいた方がいいかもしれんな…」

「ああ、こないだも訓練用の剣で真っ二つにされそうになったしな…」


「嬢ちゃん剣も使えるのか?そういや作ってもらうって言ってた装備はどうなったんだ?」

「装備は出来たんだけどね、鍛冶屋のおじさんが言うには私の場合装備がそもそも要らないんじゃないかって失礼な事言うのよね」

「ああ、鍛冶屋のオヤジがこれだけ弱点がなければ装備の意味が無いって嘆いてたな…」


「でも装備は出来上がったんだろ?」

「ええ、弱点を補完するんじゃなくて攻撃を強化する方向でって作ってくれたわ」

「できればこれつけて全力を出すのはやめてくれって言われてたけどな」


「…なんか、とんでもないことになってたんだなぁ」

「それで折角だから、やってくる馬鹿たちに使ってみようかなって。街の外なら多少は大丈夫でしょ?」


「街中よりは遥かにましだわな…。しかしこの不安感はなんだ…」

「ギルマス、そこはミヤビだからってあきらめるところだ」

「ちょっとステファン!相変わらず失礼ね」

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