GM無双~異世界でチート勇者を取り締まる! なぜなら俺はGMだから!

芳賀 概夢@コミカライズ連載中

漫遊記の始まり

GMの御出座

第1話「こんにちは。GMです」

 新型インフルエンザって本当に怖い。

 マジで。

 今、俺はそれを切に感じているわけだ。


 俺はとあるアクション系ファンタジーMMORPGのゲームマスターをしている。

 ゲームマスター、通称GMと呼ばれる者たちの仕事は、プレイヤーたちの問題を解決することにある。


 たとえば、プレイヤーがバグで壁にはまって動けなくなったとか、正しい操作ができなくなったら呼びだされる。

 たとえば、他のプレイヤーからセクハラ発言しながらつきまとわれるとか、プレイを邪魔されるとかの事件があれば呼びだされる。


 特に面倒なのは後者のようなプレイヤー同士のトラブルだ。

 事実関係を調べるためログを検索し、特別なGMのキャラクターを操作して、ゲームの中でプレイヤー双方に話を聞き、公平な判断をして、必要なら処罰をする。


 これ、マジに精神病む。

 人間同士のトラブルは、リアルでもゲーム中でも最高にスーパー面倒くさい。

 それでもこなさなければならない。


 だというのにだ。

 その精神が病みそうな対応を俺は今、1人でこなしている。


 だって今、この通称GMルームにいるのは俺1人だからだ。

 みんな病んじゃったのだ、精神ではなく肉体が。

 今、大流行している、ワクチンの開発もまにあっていない新型インフルエンザで。


 まあ、密閉された部屋でみんなで集まってGMなんてやっていれば、こうなるのは必然。

 なんで在宅にしてくれなかったんだという話だが、頭の硬いプロデューサーは言うことを聞いてくれなかった。


 中には、出勤拒否した者たちもいたけど、それはそれで正しい判断。

 この会社ってば、マジブラック。

 真黒マジブラックは、ほんと深刻。


 それでも俺は出社して、たくさんのパソコンが並ぶ部屋でGMを続けている。

 俺が最後のGMだからだ。


 俺がやめたら、壁にはまったキャラクターは抜けだせないまま月額料金を払い続けなければならない。

 俺がやめたら、セクハラ発言をされている女性プレイヤーは、嫌な思いをしながら月額料金を払い続けなければならない。


 基本無料ガチャ課金制と違い、月額料金固定制はきちんとしたサービスを提供できないと廃れてしまう。

 だからゲームを守るGMとして、その手のトラブルは見過ごせない。


「……あれ……目が……」


 しかし、それもそろそろ限界かもしれない。

 連日、栄養ドリンクとジャンクなフードを友にして、泊まり込みでGM業務をこなしていたのだが、今朝から発熱しているのだ。


 マジ、ヤバい。

 画面の文字が読めなくなる。


 視界が回り始める。


 意識が朦朧としてくる。


「だ、だめだ……GMコールが鳴り止まないのに……」


 俺がなんとか最後に確認したGMコールは、男性キャラクターにからまれているというような内容だった。

 これは緊急性を要する。


「た……助けに……」






……女性の声が……聞こえた……気がする……


俺の……姿……想い……


GMと……し……て……






「……あれ?」


 気がついたら、なんか視界が狭かった。

 まるで四角い覗き窓から覗いているような風景。


 空は見たことのないような蒼天。

 大地には、緑が広がりきれいな花々が風に揺れている。

 それが横になって見えている。


「て、天国? これ死んだ?」


 体を起こそうとすると、

 なんかカシャカシャと金属音がする。

 視界をさげると、俺の体が鎧に包まれていた。

 しかも、なんか見覚えがある鎧。


「これは……」


 頭に手を当てると、思った通りかぶり物。

 首のベルトをはずして、それを上に引っぱってとってみれば、はたして見覚えのある兜。


「これ、GM装備の赤き正義の鎧……か?」


 そして腰にはGMの赤き正義の剣、背中には赤き正義の盾。


「たぶん死んだ。だが、それは大した問題ではない」


 まあ、あの状態なら死ぬこともあるだろう。

 俺もリスクは考えていた。

 ただ、まさか死んだらGMになるとは予想していなかった。


「もしや、人は死ぬとみなGMになる……わけもなく――んっ!?」


 突然、視界の横に【GM Call】の表示がでた。

 すると次は、周辺マップらしいものが表示され、赤い丸が点滅している。


「まさか、ここにいる人が俺を呼んでいるのか? しかし、ナビは……」


 そう思っているとマップが半透明になり、地面に光の矢印が現れる。


「なんだ。AR式ナビが使えるのか。ならば問題はないな」


 俺は兜をかぶり直すと、矢印の方向に走りだす。

 重い鎧を着ているはずなのに、ものすごく軽々走れる。


「細かいことは後回しだ。ここがどこだろうとも、GMコールが俺を呼ぶ限り!」


 足を一歩踏みだせば、生きていた頃の10倍ほどの距離を進む。

 この脛当には、移動力・跳躍力アップの能力が付加されている。

 これをリアルに感じると、マジ速い。

 おかげで、疾風のごとき速度で目的地にたどりつく。


 俺がいるのは、どうやら大きめの丘の上。

 下には、それを迂回する街道が見えて、そこに馬車が1台、停まっていた。

 その周りには、馬に乗った悪そうな顔をした男たちが囲んでいる。

 総勢7人ぐらい。

 ステータスとか見えないのかなと思ったら、レベルと名前が見えた。

 ざっくりレベルは30前後のようだ。


「うーむ。いかにも低レベルな野盗かなにかみたいだが、容姿で判断するのは公正とは言えないな。コール元は、あの馬車の中か。この距離、ゲームの時なら楽々だったな。今もきっと……」


 俺の中には、不思議な万能感があった。

 できる・・・と思ったことは、できる・・・という確信。

 俺は丘を駆けおりながら、かるく跳んだ。


 脛当の跳躍力アップもあり、サクッと100メートル近くを跳んで、馬車の横に砂煙と共に降り立つ。

 はたして余裕だった。


「――なっ!? なんだ!?」


 野盗が色めき立つ。


「だ、誰だ、貴様!?」


「こんにちは。GMです」


 やはり挨拶は重要である。

 俺はきちんと頭をさげた。

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