その四
上野寛永寺、浅草の浅草寺、四谷のお岩稲荷、九段の靖國神社・・・・回れるところは全部回った。
どこに行っても、彼女は興味深げに俺たちの説明を聞いている。
浅草の今半で牛鍋を食べ終え、店を出てすぐにそいつらの存在にすぐ気が付いた。
外国人が三人、映画”ブルース・ブラザース”に出てくるジェイクとエルウッドみたいな恰好をしていちゃ、嫌でも目に付く。
だが、それだけじゃなかった。
少し離れたところに、別なのがいる。こっちも三人だ。
こいつらもやはり外人だったが、服装はばらばらだ。
彼らの方がよほど周囲に溶け込んでいる。
『いるな』健が小声で俺に言う。
『ああ、いる』と俺。
『
『寛永寺を出たときからだ』
と健が言う。
『ダンナ方、甘いな。俺は
楊枝で歯をせせりながら、ジョージがうそぶいた。
『どうする?』
健が俺に訊ねた。
『お姫様の手を、しっかり握ってろ。』俺は健に言う。
健がしっかりマリアの手を握る。
彼女ははっとしたような表情を彼に向けた。
『走れるか?』
勿論彼は日本語だ。
しかしマリアにはその意味が分かったんだろう。黙って
俺たち四人は一斉に駆け出す。
車の停めてある駐車場まで僅か5分足らずの距離だが、俺たちがダッシュすると、連中も駆け出した。
わざと遠回りして駐車場にたどり着く。
今日の彼の車、トヨタの4WDに乗り込むと、ここからはジョージの独壇場だ。
『さて、お客さん方、次はどこへ?』
『アキハバラ!』後部座席で健の手をしっかり握っていたマリアが叫ぶように言った。
『
ジョージが素っ頓狂な声を出す。
『あそこって、トラディショナルな場所だっけか?』
『アキハバラの・・・・ハナモノガタリ・・・・行きたいデス。』
彼女の口から、片言の日本語がこぼれた。
男どもは全員顔を見合わせた。
『まあいい、とにかく出発だ』
『オーケイ!しっかり
タイヤの音を
駐車料金?
牛鍋屋のサービス券があったさ!
『誰かスマホ持ってるか?』
俺が言うと、
『ほいよ』、ステアリングを巧みに操りながら、ジョージが俺に片手で放り投げて寄越した。
ネットは苦手な俺だが、このくらいは何とかいじくれる。
あった。
”女学生カフェ、花物語。
吉屋信子原作の少女小説『花物語』を基に、女の子達は全員矢絣の振袖に紺の袴でお出迎え。大正ロマンの世界に貴方を
『へぇ、そんな店まであるのか?アキバも色々だねぇ』
ジョージが感心したような声を出す。
後部座席でマリアが説明してくれたところによると、母国にいた時、日本の大正時代を舞台にした少女漫画を読んだのをきっかけに、インターネットで店のことを調べ、日本に行ったら是非寄ってみたいと思ったと、身振り手振りと英語、母国語、そして片言の日本語で話した。
『場所は?』
ジョージが言う。
素早く俺はスマホを操作する。
『中央通りをまっすぐ南へ下って、最初の筋を左に曲がって五軒目の××ビル3階』
『オーライ、それだけわかりゃ十分だ。飛ばすぜ!』
ジョージは一気にアクセルを踏み込んだ。
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