所帯を持ったトバリ

 トバリの屋敷へとアカツキと砂琉璃は足を運んだ。砂瑠璃は珍しくご機嫌だった。シュウシュウと話せたことが気持ちを高揚させていたので、気楽な気持ちで屋敷へと向かった。


 とても立派な屋敷で庭の手入れも素晴らしかった。


 トバリは、いまや、ハクの戦法会議には必ず出席し、王直属の家臣ともうまくやるので武人の出ではあったが皆に可愛がられて出世していた。そして重鎮の娘を嫁に貰い、大きな屋敷に住んでいた。もう子供もいた。




 トバリが屋敷の主としてもったいぶって現れるのではないかとアカツキは砂琉璃にさきほどの騒動も忘れて語り掛けると、砂琉璃も微笑んだ。トバリなら我々を笑わせてくれるだろうと。





 別れの時はとてもひどいものではあったが、所帯を持ち子供もいる。きっと明るい昔の思いやりにあふれるトバリに違いないと二人は考えていたのだ。




 トバリの屋敷につくと、下男がトバリを呼んでくると言ったが、庭の片隅でじっと植えられた木を眺めてる男に気が付いた。豪奢な着物を着て、幼い顔に似合わない髭を蓄えているその男がトバリであった。


「トバリ!」



 アカツキが叫んだ。砂琉璃も駆け寄った。そしてゆっくりとアカツキと砂琉璃を見るその目は昔のトバリではないとすぐさま二人は気が付いたのであった。


「……元気だったか?トバリ」



 アカツキが何とか声に出したが、返事はなかった。


「もう赤子がいると聞いたぞ!男か女か」


 トバリはずっと木を眺めてるのか空を眺めているのかわからなかったが、やっと口を開けた。


「男だ」


「良かったな!頼もしい跡継ぎはどこにいる?奥方にも会わせてくれまいか」


 アカツキが続けるがトバリはにこりともしなかった。砂琉璃はトバリが自分達に来てほしくないことを感じ取った。だからアカツキの肩にそっと手を置いてトバリに言った。


「元気にしてるか、立ち寄っただけだ。家族もいるのに邪魔をしてすまなかった。アカツキ、我々はもう戻ろう」



 アカツキが不満げに砂琉璃を振り返った。そしてトバリに言った。


「お前も出世したのかもしれないが、砂琉璃大将軍に挨拶くらいしたらどうだ!?」


 すると奥から綺麗に着飾った女が出てきたと思うと、トバリの妻であった。






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