慈恵安太婦人と名乗るシュウシュウ

慈恵安太じけいあんたい婦人のおなりです」


 シュウシュウの部屋で、ハクはシュウシュウを待っていた所であった。


 ハクは下女の声に顔を上げた。穏やかな夏の初めであった。シュウシュウの部屋は上品で、皇帝からの送りもので部屋は飾られていた。皇帝はシュウシュウに会うことはなくとも十分に気をかけているのがよくわかる。


 ハクは凛々しいままの男ぶりで、シュウシュウのいる寺院へハクが来ると知らせがくると下女たちはあからさまに喜こんだが実際にハクの姿をみると、男女ともにため息が漏れるほどの男ぶりであった。



 シュウシュウは慈恵安太婦人という称号を手に入れていた。



新な身分に見合う資質があり、寺院の切り盛りだけでなく、近く寺子屋のようなものも幾つか作り、村の子供達への教育にも力を入れた。そして自分の怪我の経験から村人のために医院も作った。


 ハクは大将軍でもあり、親衛隊長でもあるために、最初はシュウシュウに付き添っていたが度々王宮へ戻らなければならなくなった。だが、シュウシュウの辛い時期を支えたハクは、シュウシュウからはっきりと態度や言葉で示された訳ではないが、二人の間に親密さを感じるようになっていった。



ハクは自分の不在の時、シュウシュウの警護に年配ではあるがかなりの腕を持つ大将軍の一人を推薦した。


 銀髪の混じった黄連とハクがシュウシュウの側に立つと、寺院の緑に囲まれた美しさと、三人の美しさは「一枚の絵のようだ」と見るものはそう口にしていた。




「この女は宮中ですぐ死ぬ」そうハクはシュウシュウを見て思っていた。下々の者を気にかけすぎて己の立場が分かっていない。そんな人間は駄目だとハクは思っていた。



シュウシュウが砂琉璃という男を気にかけていたのも見苦しいと思った。どうせ、色恋を知らぬまま嫁がされた女の昔からの想い人に違いないとハクは思っていた。



 だが、それは全て違ったのだ。



シュウシュウは全ての者に愛に満ちていた。



だからこそ進んでハクはシュウシュウに尽くしていた。


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