砂琉璃の任務
匪賊と兎
山は日が早くに暮れ始めいていた。空が近いせいだろうか? 砂瑠璃は思った。
夕暮れは物悲しく、春先だがまだ所々に雪がある。
砂琉璃は黒々とした低い山の後ろの赤い空を見て一瞬その美しさに胸が突かれた。そんな砂瑠璃に気づかずにアカツキがぼやいた。
「もうここは飽き飽きだ。トバリは戻ったか?」
振り向くと後ろで地べたに座るアカツキはが首の詰まった服が苦手らしく、しきりに首元に手をやっていた。
トバリがそのことを注意していたのを思い出し、砂琉璃はトバリの代わりにそれを言おうかと思ったがやめた。
その仕草はやめろ! 変装がばれるじゃないか! とトバリはアカツキによくそう注意した。
だが、砂琉璃もトバリもしっかりと「眞の部族」に見えた。眞の服を身に纏い、頭の横だけそり、長髪をたらし、首の詰まった衣装を着て、商いの準備まで。商品道具は洞窟の中においてあるが、二人は眞の商人そのもの。肉付きは商人離れしているが。
「トバリか。遅いな」
アカツキと同じく襟の高い異国の衣装を身に纏った砂琉璃が答える。
トバリの提案で、眞の部族になりきってとある集落に潜入していたのだった。
今、トバリは一人集落にいる。砂琉璃はふっと笑った。ふたりは隠れ家の洞窟へと入っていた。広々として、雨風もしのげる。いい場所であった。
「あいつは兎うさぎに夢中なようだ」
砂瑠璃がそういうと、アカツキはおかしそうに笑った。
「ここで夢中な
アカツキがそう言うと、自分が含まれなかったことに
「砂琉璃、体の傷は癒えたか? 」
「あんなもの、どうってことはない。もう、何か月も前の話じゃないか」
「…ずいぶん前の親衛隊長の懲罰のことじゃないぞ。あれはひどかったが、お前は少し前に暴れた馬に落とされたじゃないか」
アカツキがくっくと笑う。砂琉璃は咳ばらいをした。山道で蛇に驚いた馬が暴れたのが三日前のことだった。砂瑠璃はそのまま落馬した。砂瑠璃は懲罰のことを思い出した。シュウシュウのことを思い出してるのをアカツキに見透かされたと思った。
砂琉璃は黙ってはいたが、体の鞭の傷を思い出せば、シュウシュウの顔がちらつく。シュウシュウが自分のためにハクに立ち向かっていたことを砂琉璃は片時も忘れなかった。
ハクに立ち向かうシュウシュウに砂琉璃はどんなに胸がちぎれそうになったか。あんなことをシュウシュウにさせるくらいなら、まだ罰をうける方がましだった。
額を地につけるシュウシュウ。刀を持つシュウシュウ。そしてそれは全ては自分の為だったのだ!
「匪賊はトバリの言う通り、むかし、眞から逃げ込んだ人間の集まりなら、話が早く済むだろうな。眞は東新に友好的だからな」
「……だが、数人でも我が
アカツキは感心して言う。
「だが、トバリ一人で潜入なんて…」
アカツキが続けると砂瑠璃が答えた。
「これが一番だ、あいつは場面をみるのがうまい。本当に頭が回る。・・・・とはいえ、まあ、偵察というより、兎と遊んでいるのかもしれないな」
砂瑠璃がそう付け加えると、アカツキが大声で笑った。
……シュウシュウの婚儀から二月は経っていた。つまり、シュウシュウと離れてから一年近く経っていた。
砂琉璃は、アカツキと西海の守る駐屯地の一か所を攻め落とした。
後から合流したトバリと
トバリが屋敷の下働きの娘と仲良くなり、それからは一人で偵察にいっているのだった。娘は広い額に少し離れた目。赤く口紅を塗った愛嬌がある女だった。
トバリはその娘に出会った時からぞっこんであった。その娘を全くの偶然で山道でひょっこり見つけてからアカツキはその女子を「兎」と呼んで
滝の近くで野営をしながらトバリが三度目の偵察から帰るのを待っているところであった。
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