ジアとシュウシュウ

ジアはシュウシュウの訪れを心待ちにするようになった。


というのも、シュウシュウはずっとお喋りしていて、その様子がとても愛らしくて文鳥のようだったからだ。




ジアは物静かで美しかった。シュウシュウはそんなジアに憧れを抱いて、気を引こうとお喋りを続けるのだった。




そしてすぐにジアはシュウシュウのおしゃべりでシュウシュウの乳母について深く知ることとなった。


多英たえいが言うのよ、あのね…」


「多英が怒るの」


「多英が言うには…」


「そうね、それなら多英も納得するわ」


会えばずっと、そんな調子でお喋りするのだ。そしてシュウシュウはジアに、


「いつか多英たえいに会わせたいわ。多英はきっと、ジア様の美しさにびっくりするわよ。びっくりさせたいわ」


そして幼い顔を懸命に大人っぽくして、


「ね? ジア様も驚かせたいでしょ? 」



大好きなジアの同意を求めてシュウシュウは熱心に言った。



その日はジアがシュウシュウのためにと焼き菓子を作っていた。


夏の盛りで、ジアは珍しく汗をかいていた。シュウシュウはそれをみて喜んだ。



「汗をかくのはいいことよ。体が元気な証拠なのよ。ジア様はほっぺがいつももっと赤いといいわ。多英たえいならそう言うわ」



ジアは笑った。昔からジアは病弱なのだ。シュウシュウがそのことに気が付いていたのに驚きつつも、顔には出さず幼子に返事をした。


「あなたは幼いのによく見てるのね。きっと育ての多英たえいは頭がいいのね。多英はいくつくらいなの?」


「わからないわ。ジア様よりずっと上だと思う。背が低くて、ジア様みたいに細くなくて、そうね。あの、美人ではないわ」


もごもごとシュウシュウは言った。悪口だと思ったのだ。それを察し、ジアは静かに見つめた。


「でも、私にとっては美しいのよ。大事なの。多英も私を大事にしてくれてる。それに子供の面倒を見るのに、見た目の美しさは関係ないわ。ジア様、そうでしょう?」


シュウシュウは多英たえいが大好きだから、美しいと思ってはいるが、そうではないことをちゃんと伝えなくてはならないと言葉に迷っていたようだった。ジアはわかっていると頷いた。


「きっと、人それぞれの美しさがあるわ。とても素晴らしい人なのね。多英たえいという人は。そうでしょう?シュウシュウ」


「そう! そうなの! 」


 シュウシュウはジアの返事に喜んだ。


「ああ、私達、いいお友だちね? そうでしょう? 」

 

シュウシュウはジアの手を恐る恐る触った。ジアは驚いた。そして、にっこり笑い、拒絶されまいと恐れている小さな女の子の手を握り、そして頬を愛おしそうに撫でた。そして抱きしめた。


多英たえいという人があなたを大事にしてるのがわかるわ。私もあなたが大好きよ、シュウシュウ」

 

シュウシュウの小さく細い腕がジアをぎゅっと抱き締め返すのだった。シュウシュウは母親を早くに亡くしていた。生きていたら、きっとジアのような母親であったと子供心で思っていたのだった。


「ジア様。私、あなたが大好き。だからあなたを誰からでも守ってあげるわ! 多英も守ってあげたいけど、多英はどちらかといえば『シュウ様をお守りするのは至難の技』といつもいうから、多英は多英で自分の身を守れるくらい強いし私を守る人なの。でもね、私は風邪一つひかないっていうのによ。とにかく、だから、私がジア様を守ってあげる」


大人びた話し方をするシュウシュウにジアは笑った。


「じゃあ、このおうちの旦那様からも、シュウシュウは私を守れるの?」


ジアは意地悪を言ってみた。


「あ、あの人は…ガンム様のことよね?…」そうね。ジア様が守れと言うなら守るわ。で、でもあの人はジア様の夫じゃあないの?」



シュウシュウが狼狽える姿は一層愛らしかった。ジアはすぐに謝った。


「冗談よ、シュウシュウ。私ったら意地悪ね。あの方は私を傷つけることはこれまでもこれからも、一度だってないの。ガンム様は私を一番に愛していて、私の大事な愛する人なの。彼が私達を守ってくれるわ」


シュウシュウはほっとした。


「そうね、わたし、ガンム様に勝つ自信はないけど、他の悪い人たちからはジア様を守れると思うわ」



シュウシュウは本当にジアが好きなので、好かれたいと熱心だった。そして、ガンムがまるでシュウシュウの恋敵でもあるかのように言う。


「私はそう思ったわけじゃないけど、ガンム様って鎧姿は素敵だと思うけど、ジアの隣に並ぶには見目がいまいち、と多英たえいが言っていたわ」

 

と、よそを向いてぽそっと言うのであった。


 



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