異世界転移、悪の道
白村
第1話
「おっはよー、錬(れん)!」
「ああ、おはよう。朝から元気そうだな、お前」
「当然! いつでもどこでも元気が俺の取り柄だからな!」
それはいつも通りの日常で、朝から元気な友人の颯太(そうた)と一緒に学校に登校した。
颯汰はイケメン、というほどではないがそれなりの見た目をしている。ただ、茶髪ということで初めて会う人によっては怖がられたりもするらしい。
「おはよー。うわ、錬眠そー」
「お察しの通り、眠い」
「いっつも眠そうにしてんじゃん」
「いっつもねむいんだから仕方がない」
そしてクラスメイト達とあいさつをして、他愛ない会話をして。
「やべ、もう先生来るじゃん」
「また怒られちゃうよー」
先生来る前に、自分の席について。
そして。
「え?」
先生が来る前に、僕らは見知らぬ場所へと来ていた。
「……え、なにこれ?」
「い、いや……、わかんない」
見渡せばそこは絢爛豪奢な部屋。僕たち四十人が入るには十分に広く、だというのに、この部屋にあるものは何一つちゃちなものがない。
僕の部屋とは大違いだ。
「ようこそ、いらっしゃった! 異界の勇士様方よ!」
声のするほうへバっと目を向ければ、そこには中世の王様のような格好の男がいた。
その男は金髪で、とんでもないイケメンだった。年は、三十くらいのように見え、いわゆる、イケオジというやつだ。
「勇士……?」
「あなた方は我が国の救世主様方! 精一杯おもてなしさせていただきます!」
こいつは……なにを言って?
「これから行われるであろう戦に備え、ゆっくりと休んでくださいませ!」
戦、だと?
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!いきなりなんだよ、どういうことだよ!」
「おお、これは申し訳ありません。詳しい状況の説明もせずに、いきなり戦と言われてもわけがわかりませぬな。では、わたくしから説明をば」
そこで聞いた話はその時の僕にはよく理解できなかった。魔王が攻めてきているから、その脅威から我が国を救ってほしい?異界の存在は魂の力が強いから、鍛えればもっと強くなる?
それは、赤の他人で、ただの子供の僕たちに頼むことじゃないだろ……?
「そ、それって……」
「俺たち、異世界転移したってこと……?」
異世界、転移……、よくある物語だ、だけどこんな、実際にあるなんて思いもしなかった……。
「じゃ、じゃあ、俺たちってチートなんだ」
「そ、そうよね。たぶん私たち、すごく強いんだわ」
だめだ、みんな。こんなものを受け入れちゃいけない。
「その通りでございます!では、とりあえず今日のところはお休みください、皆さまのために部屋を用意しております!詳しい話はまた後日にいたしましょう!」
「ど、どうせこんなの夢だわ」
「そうだよ、だからむしろ楽しむくらいで……」
おかしい、あまりにみんなが現実的な考えじゃない。いくら、現実的じゃない状況とは言っても、こんな戦争の道具として使われることを、許容できるはずが……。
僕はあたりを軽く見渡す。すると、どうにも変な動きをしているやつを見つけた。
僕らのほうを凝視しながら、ぶつぶつと何かをつぶやいている。
……もし、ここが異世界だというのなら。あれは、魔法の一種というものじゃないだろうか。いや、まだわからないし、そんないきなり疑うのもよくないことだと思うが。
「ゲームみたいなものだよ、うん」
颯太まで、この状況を軽く見始めている。これはよくない、だけど、僕にはどうにもできない。むしろ魔法に気づいたことを悟られて仕舞えば……。こんな、赤の他人の子供たちに殺し合いを強要してくる奴らのことだ、僕が消されてもおかしくない……。
「衛兵!勇士様方を部屋へと案内しろ!」
いまは、おとなしく従おう。
#####
……で、部屋に案内されたわけだけど。ここはここで、キラキラしてて過ごしづらい……。僕みたいな庶民には贅沢すぎる。
「……どうする?」
この状況、みんなはすでに乗り気みたいになっている。ただ、僕だけがこの場に乗れていないような、違和感がある。
「……今日は、もう疲れた。また明日、考えよう」
そこで思考を止め、僕は豪華なベッドに入り、目をつむる。明日のことは、明日の僕に任せよう……。
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