第6話 アンデット


 ざらざらした床にうつ伏せの姿勢のまま、両手で特に痛かった悶える。久々に感じる痛みが暫くして引いてきたので、うつ伏せの姿勢から周囲を確認する。


「あれ? 神様は……どこ?」


 周囲を見渡してもその姿は見当たらない。


 しかも、ライディが今いる場所は、あの神様と出会った暗い空間とは全く違う部屋? の中だった。


 見たところ、この部屋は床がざらざらした砂や砂利で、その上に木製の隙間だらけの小屋を置いた様な構造の部屋、建物なのだろう。木製の壁の隙間から陽光? 多分陽光が差している。部屋の中央あたりに焚火の後のような木の枝の残骸が転がっていて、それの周りに大・中・小のツボが置かれている。この部屋全体の広さは6畳ほどだろうか? 


 そして最後に目につくのが、部屋の隅に捨てられたように置かれている何か。部屋の中は薄暗く、壁の隙間から差す陽光が目立つ。ライディは自分が何かを確認するべく、それに近づく。


「痛ッ」


 細い陽光を気にせず通り過ぎようとしたら、陽光に触れた個所に痛みが走った。日焼けが悪化し多様な痛みだったが瞬間的なもので、陽光に触れたところを確認しても特に問題はなさそうだった。


(この身体は日焼けに弱いのかな?)


 ライディは呑気にそんなことを考えるが、そのレベルではない。


 ライディは気を取り直して今度は陽光を避けながら、それに、それを確認する。


「うっ…」


 それを目にしてライディは思わず引いてしまう。


 それは、人間の赤ちゃん


 しかし、ライディの知る姿とかけ離れ過ぎていて、一瞬、他の生き物だと思った程だ。その赤ちゃんだったものの外見は一言で言うと、骨と皮。未熟児だ。動物に例えると蝙蝠の様だ。手足は異常に細く、胴体部分にはお腹の部分がへこみ、あばら骨の形がありありと見える。思わず目を伏せてしまいそうになってしまうが、ライディは赤ちゃんだったものを見つめる。

 

 もうすでに赤ちゃんはこと切れていている。しかしライディはそれを、ただ見つめる。


 暫く、赤ちゃんを見つめた後、おもむろにステータス画面を開く。


(ステータス)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【名 前】ライディ

【種 族】アンデット(レイス) 【年 齢】― 【魂の質】G

【異 能】―

【筋 力】―

【体 力】―

【感 覚】―

【敏 捷】―

【耐久力】―

【器用さ】―

【知 力】G(0/10)

【精神力】G(0/10)

【EXP】1

固有技能ユニークスキル】不滅精神 無限転生

技 能スキル】言語理解:日本語Ⅲ 英語Ⅰ 算術Ⅲ 料理Ⅱ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「そうか」


 さすがのライディもここまで情報が出そろえば色々分かってしまう。


 まず、この赤ちゃんの死体は、元はライディの身体だったものでおそらく間違いないだろう。

 次にこの赤ちゃんの身体だが、見た目からして地球の高度な医療でも回復は厳しいのではないだろうか。そしてこの部屋の状態から察するに、地球の日本ほど暮らしは豊なものではないのだろう。そして、そのからだが今のライディの現状を物語っている。あの暗い空間で神様は言った、「【魂の質】に見合った器に転生する」と。


 ライディの【魂の質】はGランクである。Gランクでは生まれて1週間も持たないからだに転生してしまうのだろう。

 ライディの選んだ代償の重さが改めて分かる結果となった。


 再び元自分の身体だったものを見つめると、なんだか遣る瀬無い気持ちになり、こぶしに力が入るような感覚がした……気がした。


「スゥッ」


 出そうになった溜め息を飲み込み、自己嫌悪に浸る。


(あぁ……悲しいなぁ……私はまるで成長していない)


 ライディは悲しむのと同時に、かなり怒っていた。そもそもライディは肉体的に死んでしまったことは、仕方ない。と割り切れているのである。あの身体で2日も持ったのも御の字だと考えられるくらいには割り切れている。精神的に生きていることがライディにとって重要なので、肉体がなくなったくらいではさして動揺していない。


 では何を悲しんで、怒っているのか? 


 それは、死んだときの状態にある。



 ライディが死んだときの状態は走馬灯のような夢を見たが、寝ていたのである。

 

 さて、ライディの地球での死はどんな状態で迎えただろうか? その時も寝ていましたね。


 しかし、ライディは何も寝ている時に死ぬことが悪いとは思わない。


 怒りの原因は寝る前の行動、思考にある。


 1回目(地球)では、熱がある、学校休も~。からの二度寝である。

 2回目(転生後)では、思考放棄と、ふて寝である。


 呆れるしかない。まるで成長していない。

 確かに代償によって思考力が落ちたことも原因の一つだろう。しかし、神様の前での誓いをこうもあっさり踏みにじるとは自分自身でも思っていなかった。そのことに気付き、落胆し、自分自身の不甲斐無さに怒りを覚えていたのだ。


(私はに対して、まだ心のどこかに甘えがあるのか……) 


 真面目腐った生き方をしたいとは思っていないが、適当に場当たり的に生きていくのは嫌だった。


(今から、変わっていくしかない)


 ライディは一旦、自己嫌悪の思考を止めて、現状と、これからすべき事について考える。


 まず現状確認から始める。


(ステータス)


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【名 前】ライディ

【種 族】アンデット(レイス) 【年 齢】― 【魂の質】G

【異 能】―

【筋 力】―

【体 力】―

【感 覚】―

【敏 捷】―

【耐久力】―

【器用さ】―

【知 力】G(0/10)

【精神力】G(0/10)

【EXP】1

固有技能ユニークスキル】不滅精神 無限転生

技 能スキル】言語理解:日本語Ⅲ 英語Ⅰ 算術Ⅲ 料理Ⅱ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ステータス画面を見るとかなり変化していた。

 まず、種族が人族からアンデット(レイス)になっていた。これはライディが肉体的に死んで、精神体だけがこの場所に留まっている状況から、所謂「お化けになって枕元に出てきました」と言うことだろう。肉体的に死んだら、すぐに次の器(からだ)に転生するものだと思っていたが、必ずしもそうなる訳ではないみたいだ。


 次にステータスのいくつかの項目が変わりランクすらも表示されなくなっていた。これは恐らくだが、アンデット(レイス)は【知 力】と【精神力】以外は【EXP】が振ることができない、成長させることが出来ないのではないだろうか? 


 何も成長させることが出来ないよりは遥かにマシだが、出来ればすべての項目を平均的に挙げていきたかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る