第23話 囚われの天使族

先刻まで裸だった女性は、衣服を纏い一際豪華な作りのベッドの隣にある椅子に脚を組ながら座っていた。


「先程は失礼した。貴殿達の動向を知ってもしかしたらここまで到達するのでは?と思い、身を清めていたのだが、いささか長風呂になってしまっていたようだ。所で、ソナタたちは何故そんな部屋の隅に居るのだ?」








部屋の主に問いかけられたロゼッタは、未だに顔を赤く染めたまま白銀の髪の女性を指の間から眺めており、残りの三人は、尚も部屋の隅でお辞儀を継続していた。返答の無い一向に対し、椅子に腰かけたままの女性は、再び一行に問かけた。






「どうした?何故こちらを向かぬのだ?」


久しぶりの来客が、よそよそしく感じた女性は、少し寂しそうにも見えたが、ロゼッタがその質問に対して動揺しながらも答えた。


「貴方!なんで下着しか着けてないのよ!?ふっ服を着て下さい!!」








その言葉に暫し自身を見回した女性は、何かを思い出したように微笑んだ。


「すまない。久しく来客など無かったもので、忘れていた。今着替えてこよう。」


そう言って、女性はまた奥の部屋に向かっていった。








暫くして、肩から鎖骨辺りまではだけた黒いドレスのような衣服に着替えた女性が再び一同の前で同じ椅子に腰かけた。その姿は先程と違い、妖艶な雰囲気をかもし出していた。


「何度も失礼した。これでよいのだろうか?」








女性の問いかけに、頬を赤らめた一ノ瀬が無言でうなずくと、何故かその様子を見た女性は満足げに一ノ瀬に視線を投げかけていた。その様子を見ていたロゼッタは、少し拗ね気味に自己紹介をした。








「改めて、私はエルフ族のロゼッタと言います!」


ロゼッタの言葉に、対面して椅子に座る女性は一同に喋りかけた。


「知っている。ここを訪れた者の気配や音をわらわは感じ取る事ができる。わらわはセリス。この場所に百年程住まう元天使族であり、今はアンデットとのハーフ種族だ。」








セリスと名乗った女性の言葉に、皆ここに至るまでの経緯を知られていた事に、内心複雑な思いであったが、一ノ瀬は、近況報告のようにサラッと自身を紹介したその言葉で、驚愕していた。


「百年て!?じゃあ貴方はこの場所から出れずにずっと一人でいたんですか!?」


一ノ瀬の質問に、セリスは端的に答えた。








「うむ。この場所で数年、数十年と月日を重ねてきたが、わらわを蘇生させた者以外、誰もここまでたどり着く者はいなかった。」


セリスは、とても寂しそうな表情で呟いた。それを見ていた一ノ瀬は、胸をぎゅっと掴まれたような気になり、反射的に寂しそうな微笑みを浮かべるセリスの元まで近づき、膝に置かれていた手を掴み言葉を紡いだ。








「なら、俺達とここを出よう!」


その言葉を待っていたかの様に、セリスは青い瞳に涙を浮かべるが、一ノ瀬から視線を反らし悲しみを含みながら呟いた。








「ありがとう。でもそれは不可能なのだ。先程も伝えたように、わらわは、ここを訪れた者を感知出来る。先程貴殿らが道中でゴーレムと戦い、勝利した事も知っている。だが、この場所にはもう一体のゴーレムがわらわを守る為に存在している。そのゴーレムは、幾十数年もの間、何度も外に出る為に手合わせしているのだが、百年程の月日の中でも、わらわはあ奴に勝利はできずにいるのだ。元来はわらわを守る為に生み出された為、わらわに危害は与えぬだろうが、貴殿らには容赦も無いだろう。だから、この場所で、わらわを見つけくれただけで満足なのだ。」








目の前に居るセリスがどれ程強いのか分からない一行であったが、中でも一ノ瀬の決意は変わらず、健気に振る舞う姿に、一ノ瀬は自身の内から何かが溢れ出そうな感覚を覚え、背後にいる三人にアイコンタクトで確認をし、再度セリスの手を強く握った。








「セリス、大丈夫だ俺達に任せろ!絶対にお前をここから連れ出してやる!」


一ノ瀬のその言葉に、瞳に溜めていた涙を止められずに流すセリスは、静かに一ノ瀬に向け、うなずいた。

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