第12話 アダムとイヴ
太陽が真上まで到達した頃、畑仕事を手伝っていた一ノ瀬達の元にロゼッタとレイヤがお弁当を持って畑に訪れた。
「二人共!おつかれ様!お弁当を作って来たから一緒に食べましょう!」
ロゼッタの言葉で、一緒に作業をしていた獣人達も昼休みに入った。
「そう言えば、結局ベルは朝食も食べに来なかったんですが、何処に行ったのでしょうか?」
昼食を食べる一ノ瀬に尋ねてきたレイヤに、一ノ瀬は指でベルトレの所在地を伝えた。その指の指し示す方向に目をやったレイヤとロゼッタは、未だ子ども達のオモチャと化して、虚ろな目で引きずり回されているベルトレを確認した。
「昨日からまともに食事を取れてないみたいですし、朝食もとらなかったから大丈夫かしら?」
心配するレイヤを他所に、畑の側で昼食を取る一同を見た瞬間に、まるで魚雷のようにかなりの速度で飛んで来たベルトレは、流石に限界だったのか、一同の目の前に頭から地面に突き刺さるように不時着し、死にかけの様な声で地面の中から食事をもとめてきた。
「お腹、へった。何か、くれ。」
その後、一ノ瀬達と食事をとったベルトレは満足そうにぽっこり出たお腹を空に向け横になっていた。それを母親の様に微笑みながら眺めていたレイヤも、幸せを感じている様な顔をのぞかせていた。そんな中、一ノ瀬は意を決してベルトレに、この場所との関わりを聞いたのであった。
「ベル、少し聞きたいんだけど、何故この場所に来る事をあんなに嫌がっていたんだ?この場所で過去にあった事は聞いたけど、ここの住人は皆ベルの帰りを待ちわびていた様に見えていた。ここで一体ベルに何があったんだ?」
数秒の沈黙は、辺りで休んでいる異なる種族の者たちの会話する声と、木々が風に煽られて、枝や葉をこすり合わせる音が支配しているようだった。ベルトレは紅茶の入ったティーカップを両手で支え、中の紅茶に映る自身を悲しげに見つめていたレイヤを一瞥した後、一ノ瀬達に語り始めた。
「6年前、我は魔族が統括する三つの軍、(紅軍、青軍、黄軍)の一つ、青軍の指揮官を務めていた。その頃、魔族は様々な種族が持つ魔導禁書を求め、他国を襲い始めていた。」
話しを聞いていた三人はベルトレが魔族の軍を率いていた頭だった事に驚きを隠せないでいたが、ベルトレの話しは急展開をみせた。
「国王の指示によりエルフが統治する国、ソルティア王国への進行を決めた際、ソルティア王国の戦力をかんがみて、基本的に別行動がほとんどだった三つの軍は共に王国を攻める事になった。しかし、国を落としはしたが、目的の魔導禁書を見つけられなかった事を、紅軍と黄軍が我が軍に濡れ衣をきせ、国王の命令により、青軍にいた我が配下の者たちは、仲間であったはずの二つの軍により一人残らず殺されていった。唯一残った我は最後まで抵抗し、二つの軍の指揮官の、片腕と片眼を奪ってやったが、、」
複雑な面持ちのロゼッタの表情は先刻より太陽を隠している雲のせいか、その目元に影をおとしていた。そんなロゼッタには一切ふれようとしないベルトレは、話しを続けた。
「結局多勢に無勢であった我は、瀕死の状態にまで追い詰められたが、微かに息があった部下の転送魔法でこの森に飛ばされたことにより、魔族の軍から逃れられたが、既に瀕死であった我をこの森で見つけ、介抱してくれた三人の兄妹がいた。そのおかげで九死に一生を得たのだが、その三兄妹の末っ子の名は、(レイヤ)と言い。そして、その三人の内の上二人が、後に魔導禁書を使用した(アダム)と(イヴ)と言う。」
「「「 !!?? 」」」
その名を聞いた瞬間、三人はレイヤに目線を振ったが、レイヤはもう冷めきった紅茶を儚く見下ろしていた。
「そして集落で数年を過ごしたある日、この場所に魔族と蛇人族が責めてきた。その際、この地と三兄妹の一人、イヴを愛していた我は皆と共に戦っていたのだが、直ぐに我の存在を知った当時の指揮官二人に空中戦で足止めをくらい、そのうち、地上の森は炎に包まれてしまった。我は地に落とされ、再び命を奪われそうになった時、アダムとイヴが我を助けるために、我が与えた護身用の短剣で手のひらを切り、その血を本にかけ自らを対価に禁術を発動させてしまったのだ。軍が殲滅された時ですら憎しみしか懐かなかったわれが、自らの愛する者を失って初めて悲しみを知った。愛する者すら守れない我はこの場所に居る権利も資格も無いのだ。」
「そんな事はありません!ベルがイヴ姉様を愛し守ろうとした様に、アダム兄様やイヴ姉様も、、」
一通りの出来事を語り終えたベルトレに対し、レイヤはその事に対して否定しかけたその時、昨晩ベルトレが訪れた大樹の谷間で凄まじい爆発音が轟いた。
その場に居合わせた皆が、大樹を見上げるなか、ベルトレと一ノ瀬は逆方向から殺気を感じ、空に浮かぶ二つの影をその視界に捕らえた。
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