第4話 魔族の目覚め

朝日が山々から離れる頃、クラインも立ち上がれるほどに回復した。一ノ瀬はそんなクラインがまだ全裸である状態ではいずれまた地に伏せる事になると考え、自身がもつ学生鞄から体操ジャージを渡した。








「一ノ瀬さんありがとうございます。」


高校生の一ノ瀬に比べ、気耐え抜かれた筋肉と180cmはある高身長の体には、渡されたジャージはきつそうではあるが、何事もないかのように振る舞う姿はクラインの真面目さを強調するかのようにみえた。








「きっちり洗って御返しいたしますので、暫くお借りしたままでよろしいですか?」


「構いませんよ。あとそこまで気にしないでください。使い終われば洗い物は自分でしますので。」








「いえ!そんな訳にはまいりません!命を救って頂いただけでなく、このように衣服までご提供していただいているのです!きっちり洗って返すのは当然の責務かと!!」


クラインに圧倒された一ノ瀬は首を縦に振るしかなかったようであったが。一ノ瀬が見えない所で何故かジャージを眺めながら幸せそうな笑みをうかべるクラインを見ずに済んだのは幸せだったのかもしれない。








暫くして、ロゼッタが瓦礫の山となった神殿からもどってきた。その姿は昨夜のまま、ボロボロのローブを深く被っていたが、一之瀬の顔を見るや否や、少し頬を赤らめていた。










「一ノ瀬さん、本当に私達と旅をして頂けるのでしょうか?」ロゼッタは恥ずかしそうに、不安げな表情で聞いてきた。








「そのつもりですよ。色々疑問や思う事はありますが、何よりロゼッタさんの悲しい顔は見たく無いと思ったので、微力でもあなたの助けになれればそれで、、、」


「ありがとうございます!あらためて宜しくお願いいたします!」


昨晩色々な事が有りすぎてフラフラな一ノ瀬だったが、ロゼッタの満面の笑顔を見たとたん、疲れが吹き飛んだような感覚になった。








「ところで、あ、あちらの方はどういたしますか?」


おずおずと自身が殴り付け未だ気を失ってる魔族の方に指をさして聞いてみた。








「う~ん?このまま目を覚まして逃がすと色々面倒な事になりかねないわね。」


そう呟いたロゼッタは手を叩き、何かを思い付いたのか、魔族の周りに魔法陣を描き始めた。








じきに完成した魔方陣は二つあり、一つは中央に気を失った魔族がおり、もう一方には一ノ瀬を呼び立たせた。クラインを魔方陣から少し離し、ロゼッタが召還時に行ったように二つの魔方陣を前に歌い出した。








暫くすると、双方の魔方陣が輝き出しやがて魔方陣に乗った二人が光に包まれた。


「これは!まさか!?」


何かを悟ったクラインが声を上げた瞬間、辺り一面に光が満ちた。








「ん?ここは?」


暫くして魔族の男が目を覚ました。








「あっ!キサマー!どへっ!?」


魔族の男は視界に三人を見つけた瞬間襲いかかろうとしたが、体に違和感を感じそのまま転んでしまった。








「、、、?、、、、!?」


転んだ体を戻し自身の体を手探りで確認して驚愕した様子をみせた。それもそのはず。クラインより高かった身長はおおよそ60cmほどの高さになり鍛え抜かれた体は卵の様なシルエットに短めの手足が生え、立派な角にいたっては細い枝のようなものが頭から生え、丸々とした茄子に似た紫色の全身にまん丸のキュートな目をぱちくりさせている姿は、まるでどこぞの(ゆるキャラ)のような風貌になっていた。








「ま、魔族のなかでも高位の我が、なぜ!?」


絶望感を隠しきれない魔族は体を(プルプル)と震わせた。さらに追い討ちをかけるかのごとく、ロゼッタが無意識の爆弾を魔族に落とした。








「貴方をこのまま帰してしまいますと、私達の追っ手が増える危険性があるため、気絶している間にこちらの一ノ瀬さんと(使い魔契約)をさせていただきました。この契約では主人に反抗や恐怖を与えないために、見た目を変え、主人に危害を与えようとすると、胴体が捻れたりという罰が下るようになるんですが、大丈夫ですよ。とっても可愛いから!!♪」


そう説明を終え、ノリノリで自身の鏡を魔族に向けた。








「ホウヒッ!?」(パリン)


鏡に映った自身を見てしまった魔族は、最早言葉にならないような、喉の奥から空気が抜けるような音をたてて、無意識に発せられた魔力で割ってしまった鏡を前に、再びそのままの体勢で気絶したのであった。








「えっと、、何かごめん、」








気絶した魔族には一ノ瀬の言葉は届かなかった。

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