3-5

「えっ、……ええっ?」


 不意を突かれたように驚嘆する雫玖は、佐久間、そして八坂をキョロキョロと確かめる。

 それは八坂側も同じらしく、


「えーっ、ひょっとしてこの子、佐久間のカノジョ? まっさかー、そんなはずないよね?」

「ちっ、違うもん! 私と佐久間はただの……何だろう? 友達……?」

「学校の知り合いだよ。事情があって、今はこの出雲さんたちと一緒なんだ」

「へぇ、そっか。あたしは八坂奏那、佐久間とは中学時代のクラスメイト」

「あ、私は出雲雫玖。よろしく」


 佐久間の前で軽く自己紹介をした雫玖と八坂。


「佐久間ってどこの高校に行ったんだっけ? 知り合い、誰も佐久間の行方を知らなくてさ」

「ボクは洛葉だよ」

「えっ、すごいじゃん! あーそっか、成績は良かったんだっけ。たしか篠宮とか西野、黒川ちゃんとかも洛葉だったとは聞いたけど?」


 と、中学時代の話で盛り上がる二人(とは言っても沸いているのは八坂一人で、佐久間は平時のような淡々とした有様だが)。


「って、洛葉なら今度梅桜高校ウチらと洛桜祭やるじゃんっ。私、企画委員なんだ」

「実はボクも実行委員って形だけど、洛桜祭に携わることになったんだ」

「珍しい、佐久間がそういうのに関わるなんて。文化祭とかいつもトランプで遊んでなかった?」

「いろいろとあってね」

「ふーん。あ、待ち合わせがあるからこれで。近いうちにまた会いそうだし、その時はよろしく。そんじゃ、バイバイ」


 そうして手を振りながら、中学時代のクラスメイトは去っていくのであった。


「それで、あの女はキミにとっての何なのよ?」


 見計らったかのようなタイミングだ。振り向けば、雫玖もまた彼女の登場に驚いている。


「中学時代のクラスメイトだよ。あまりしゃべったことはなかった」

「そう。でも佐久間くんの顔を見ると、それだけには見えないけど」

「え、それって女の勘ってヤツ!? 私は佐久間見てもピンとこないけど……?」

「何にもなかったと言いたいところだけど、秋月さんには通用しないか」


 佐久間が観念したようにハハッと笑ったその時、


「おーいお姉ちゃんたち! こっちこっちー!!」


 遠方からの元気な女の子の声が、三人の間を割り込んだ。


「この声……果澄? って、もうこんな時間?」


 掛け時計の分針は午後〇時の三分前を指していた。

 燐は名残惜しそうに佐久間を一瞥するものの、仕方なしに妹らの方を見据えて、


「時間だし、まずは待ち合わせの場所に行きましょう。続きはまた、お昼を食べながらで」

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