元魔王の学校生活
黒滝イクヤ
第1話
「ぐぅっっっ……」
「追い詰めたぞ、魔王!!」
魔界の中央に存在する一つの大きな城。その城の王の間にて、現在勇者と魔王の戦闘が行われ……いや、戦闘は既に終わりを告げていた。
「わ、我がお前たちに何をしたと言うのだ」
「貴様……とぼける気か!!」
実際、魔王は何もやっていない。
普段は、お花を愛でたり城を掃除したりしているのだ。ここ数百年は外にも出ていない。だが、勇者の口からは身に覚えのない行いがどんどんと吐き出されていた。
「貴様は、俺の故郷を……愛する人を殺し、更には五つの国を侵略しようとモンスターの大群を放ち、三つもの国を壊滅させた原因のお前が『何をした』だと?……ふざけるのも対外にしろ!!」
「な、なにそれ?我そんな事してないぞ!!」
もちろん、魔王は勇者が言った事全部に関わっていない。全く、全然。
だが、魔王の言う事に当然聞き耳を持たない勇者は手に持つ光り輝く剣を天に掲げた。
「もういい……これで全てが終わるんだ」
「いや、終わらないから!!我を倒しても終わらないから」
当たり前だ。魔王はやっていないから。
「そうか……お前を倒してもまた第二、第三の魔王が生まれると言いたいのか」
どうやら勇者は別の意味でその言葉を捉えたようだ。
「違うって!!我はやっていない。別の者の仕業だ」
「これで最後だ!!くらえ、聖剣『ライトニングカリバー』!!!!」
「待て!!我はやってない、無実だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「……わっ!!ゆ、夢か」
久しぶりにあの夢を見た。
おぞましい我の記憶……考えただけでも震えが。
我は勇者に倒されてからどう言う訳か人間の子に転生したのだ。現在12歳の普通家庭のどこにでもいる男子小学生……いや今日から中学生だ。
「くっ……中学生になる記念日だっていうのにこんな夢を見るとは」
我は布団から出て、一階に降りると階段のすぐ近くにある洗面所に向かった。
「あれ、マー君おはよ」
「姉上、そのマー君ていうのやめてくれないか」
鏡を見ながらドライヤーで頭を乾かす姉「魔木田霞」が眠たそうにおはようの挨拶をしてきた。
「今日は起きるの早いね」
「当たり前だ、今日は中学の入学式だからな」
霞を横に追いやり我も顔を洗い、歯ブラシを手にする。
「そっか、今日入学式だった。お姉ちゃんうっかり」
「そんなんで生徒会長が務まるのか?」
そう、我の姉上はこれから通う中学『市立光田中学校」の生徒会長なのだ。こんなのんびりな性格だが成績は常に学年一位、運動神経も抜群ときたもんだ。弟としてはとても誇りに思う。
「お姉ちゃん、入学式で挨拶するからちゃんと聞いててね」
「姉上が挨拶か……分かったしっかりと聞いておこう」
口を濯いでついでに寝癖を直すと霞と一緒に朝食が用意されているリビングへと向かう。
リビングには既に父上が朝食を食べており、母上はキッチンで片付けをしている。
「おはよう真央、霞」
「あら、おはよう。2人とも早く食べちゃいなさい」
我は両親に「おはよう」と返すと朝食の前に座り、コップに牛乳を注ぐ。ついでに姉上のコップにも注ぎ入れる。
「いただきます」
今日の朝食は目玉焼きにソーセージ、サラダにコーンスープ、そして食パンだ。
我は食パンの上に目玉焼きを乗せてかじり付く。
「うん、美味い」
テレビの食レポのようには言えないが普通に美味い。次にサラダに手を付ける。こちらも同様に美味い。和風ドレッシングが丁度良い量かかってる。ソーセージもコーンスープも美味しい。最高の朝食だ。
「真央、今日の入学式バッチリカメラに収めるからな」
「うむ、よろしく頼む」
既に食べ終わった父上は入学式に向かう準備を、母上は化粧をするため洗面所に向かった。
「ごちそうさま、お姉ちゃん先行くね」
「分かった、気をつけてな」
やはり、生徒会は忙しいのか食べ終わるとすぐに学校へ向かっていった。
「さて、我も行くか」
二階にある自室に戻り制服に着替え、昨日から準備していたバックを背負い改めて鏡を見る。
「よし、ネクタイも曲がってない。忘れ物もなしっと」
階段を降り、父上と母上に挨拶をする。
「父上、母上、もう行くから」
「そうか、また後でな」
「気をつけて行くのよ」
我は玄関に向かい、外へと続く扉を開いた。
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