オレンジマン

真野てん

第1話 公然の秘密

 ”僕らには公然とした秘密がある。それは――”



 もうすぐ冬がやって来る。

 枯れ葉舞うグラウンドを窓から眺めながら僕は、松岡 悠斗はそんな事を考えていた。


 小気味好い板書の音が響きわたる午後の授業。程よく満たされた空腹の影響で、まぶたが重力に逆らうのをボイコットしそうだ。

 ノートに移した視線がぼやけている。これはいけないと思い、もう一度窓の外を見た。

 秋晴れの空はどこまでも高く、澄んだ空気のおかげで景色も綺麗だ。


 慣れ親しんだ街並みに、民家の屋根が続く。

 そして遠くにはオフィス街のビルの森が見えている。

 平穏そのもの。

 だが――。


「あれ?」


 教室のどこかで声があがる。何気ない呟きだった。その直後。

 さっきまで何の変哲もなかった風景が、突如として戦慄に変わる。

 高空から鋭角に、一条の光が降り注いだ。


 光の着地点はオフィス街だった。その証拠に、いま一棟のビルが倒壊していくさまが教室の窓から見えている。


 ピサの斜塔のように傾いたかと思うと、下方からひどく土煙が舞った。次の瞬間には僕らのいる校舎が揺れだした。窓ガラスは割れないまでも、衝撃波で震えている。


 まるでスローモーションのようにオフィスビルが煙幕に呑まれていった。

 そしてもうもうと立ち上げる粉塵の中から、ひとつの巨大な影が現れようとしていた。


「怪獣だ!」


 生徒のひとりが立ち上がると、教室は騒然とした。

 次々と席を立ち、一目怪獣を見ようと彼らが窓際へ殺到する。


「ちょ、ちょっとお前ら!」


 僕の席は一番窓際の列にある。大挙として押し寄せるクラスメイトの波に、僕の机は倒れそうになった。

 すると、しばらくして校内放送がはじまる。



(つづく)

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