第19話 戻る者 挑む者 倒れる者

その日、恭介は出勤して着替える前に事務所に寄った。前日使ったドライバーがポケットに入りっぱなしになっていたのを届けた


パチンコ屋の事務所には監視カメラのモニターがあり、同時にインカムの会話が聞こえるようになっている


その画面には飄々と早番で戻って来ていた野原が映っていた


「(戻って来たのか…3週間くらいか)


野原は遅番の朝礼にも顔を出した


「皆さんには大変ご迷惑をおかけしましたが、また気持ちを切り替えてやっていきたいと思いますので、よろしくお願いします」


面白いもので


そういう時誰が責めるとかでもなく


「ああ、そうなんだ」という空気になる


相手が野原だったからの反応なのか、皆の気遣いなのかは解らなかったが、恭介は堀田さんや木咲さんご仮に戻ってきたらどうだったんだろうとか考えていた



その日の遅番の勤務中、本社の部長が顔を出しに来た


バーベキューを仕切っていた人で、アミューズメントの総括をしているようだ


御目当ては城崎


元々上田が報告をあげていたこともあり、城崎が社員になる事は皆期待していたようだ


店に来た部長はたまたま入り口近くにいた恭介に声をかけてきたが、その時の言葉は不思議と記憶に残っている


「城崎君いる?」


なんの変哲もない投げかけだ


元々信用していなかったから動揺はしなかった

「今呼びますんで…ズビッ」

と伝えて城崎をインカムで呼ぶと恭介はその場からすぐに消えた


労災の話は、結局なし崩しに無かったことになっている


「ご苦労様」も「挨拶」もない


忙しい時間に限ってやってきては自分達の都合だけ押し付けて帰る


どこにでもよくある事なのだが、そうしたノリが恭介には馴染まなかった


「わあ、部長!どうしたんですか?」

「ちょっと様子見にね、受けにくるんでしょ?」

「はい」


城崎は相変わらず器用に人と接する、恭介はそう思っていた


その日の帰り、恭介は鏑木に呼び止められた

「冴島、お前ずっと風邪気味だろ?社会人なんだからとっとと治してこい」


「…はい」


なんだろう


どうでもいい


治してはどこかしらがおかしくなって、治ったらまた傷が開いての繰り返し


体調管理も仕事のうち


そりゃあまあそうなんだけど


今までなんとかやってきたのも、城崎や山本が答えを出すまで踏ん張ろうと思ってやってこれた


だけどそれが見えてきた今、モチベーションもない


恭介には鏑木の声がとても遠くからに聞こえた


キリッ




ゴリュ



ギリリリリリ



普段目覚めない朝早くの時間に恭介は自分のお腹の異変と痛みによって目が覚めた


よく解らないがお腹が痛い


そして力が入らない


時間は朝の6時


幸い今日は平日だ

時間になったら病院に行こう


今までお腹の調子が悪くなる事はあったが今までのそれとは明らかに違う


ずっとではないが、波のように押し寄せる痛み

なにより、胃の辺りが身体の一部とは思えない

力も入らず、トイレから離れにくい状態だ


恭介が鏡を見た時には


血の気の引いた青白いやつれた男がそこにいた

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