第16話 野原さん、それはやっぱおかしいよ

恭介の想いとは裏腹に、ホールでの仕事はさらに充実していく


他店の輪番店休の日

恭介と城崎で指示出し

この日はほぼ遅番スタッフ勢ぞろいしてるかのようなスタッフの多さ


高まる稼働を凌ぐ為だ


1度入った島のランプがひっきりなしに付き

恭介が島から出れずにあたふたしてるのを

城崎と安河が笑っていた


嘲笑っていたのではない


忙しい事を楽めていたのだ


「いや、フォローしに来てくださいよ」

「いや、ははっ。面白くて見てたかった」

「ニコニコじゃん、楽しそうじゃん」


安河との会話の途中もひっきりなしに付くランプ


城崎と恭介の指示


厚めに入ってくれたスタッフの力もあり、本来の5割増な忙しさのホールはなんとか回った


その日の終礼


「飲み会?」

「本社に研修に行った社員がスタッフに対してもっと恩があるのではと意見書に書かれてたようで、本社からの提案だ、来れる人は来るように」


「…(そんな事言わんでもいいのに)」


鏑木が話した内容には皮肉を感じた恭介

その意見書を書いたのは恭介であったからだ


「ズビッ」

「冴ちゃんなんかずっと体調崩してない?大丈夫?」


相澤はそう声をかけてきた

「ああ、大丈夫だよ」

「なんかさぁ、冴ちゃんの午前3時のラジオパーソナリティみたいな声がだんだん辛そうに聞こえてきたって嘆いてたよ」


「…誰がですか?」

「早番の吉岡と仲村」


「午前3時のラジオパーソナリティ…ははっ、まあ大丈夫だよ」


恭介は少し違和感を覚えた

早番に最後に入ったのは1週間前だ

そんなに長く体調を崩してたか?と



飲み会の日

閉店した後で主に遅番のスタッフ達と近くの居酒屋へ向かう


少し遅れて鏑木と野原も来た


恭介は城崎や相澤と談笑しながら酒の席を楽しんでいた


しかし


少し違和感、というより盛り上がりすぎてる席があった

「冴島さん、野原班長大丈夫ですか?凄い飲まされてますよ」

最近は早番に入る事が増えた山本

山本は遅番の面子が好きなようでちょくちょく顔を出す


その山本が野原の身を案じてそう言いに来た


「まあまあ、飲み会なんだから思いっきり飲んで」

「はいはーい、じゃんじゃん飲みます〜」

と鏑木は野原に酒を勧めていた


もともと鏑木はどんだけ飲んでも酔わない酒豪だ

野原は酒が入るとただのお調子者になる

そこまで強くないのに際限なく飲むのだ


それを鏑木は面白がっているようだ


「嫌がってる訳でもないなら放っておいていいんじゃないですか?」

「でも野原さん明日出勤ですよ?」

「それは、僕もだし、スタッフの皆も同じ」

少し冷たくあしらう恭介


あまり役職と関わりたくはなかった


「飲ませてんの店長だよ?それくらい解ってやってるでしょ」

城崎がそうまとめた


飲み会も終盤に差し掛かり、場を締めようとした時に


「…野原がいないぞ」

と皆が気付く


電話しても繋がらない

「おそらく勝手に帰っただけだろうから帰ろう」


と締めた鏑木


そもそもいつからいないのか誰も知らなかった


翌日


案の定どう見ても二日酔いの野原がナタデココにはいた


本当にそのまま帰っていたらしい


「勝手に帰るとは何事だ!だいたい丁度いい酒の量も自分で把握出来てないのか?」

と声を荒げる鏑木

「すいません」と頭を下げる野原


その様子を見ていた城崎は


「…自分で飲ませてたんじゃん」

と小さく呟いた


同感


と思った恭介


だが何も言わなかった


思えば、鏑木が自分の非を認めた事など見た事もなかったからだ


あの手この手で理屈をこねてくるだけ


そのイメージが覆される事は終ぞなかった


近く、恭介は真っ向からその理屈家とぶつかる事になる


それは


もう少し先の話

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