第2話 私、炎上中
高校に進学しないという選択肢が全てだったのかは分からない。
しかし別居を許さない両親が他の道を示してくれない以上、15歳の私が少ない人生経験から導き出した最善の答えだった。
自立したいと告げた時は猛反対されたが今では自分の金でやるなら勝手にやってろと言う感じで特に触れられる事もなくなった、悪く言えば腫物扱いと言った所か。
でもその方が好都合だ、変に干渉されて親の理想通りの生き方を押し付けられ操り人形になるよりはずっと楽だと思った。
面接を2回へて決まった人生初のバイトは全国チェーンの飲食店で接客スタッフとして働くというもの。
私がイメージしていたバイトの典型と言った感じで、来店したお客様の注文を聞き繰り返し、料理を運ぶ。
時給は950円程度と一般的より少し上と言った所か、生活は忙しくなったが順調に貯金が増え順風満帆に事は進んでいるかに見えた。
あの客達が来るまでは…その日は仕事もひと段落付きあと少しで退勤かという時、4~5人のガラの悪いグループが入ってきた。
店内で大声を上げて騒いだり如何にも迷惑をかける類だが、遅い時間という事もあって他に客もおらず触らぬ神に祟りなしといった感じで特に注意をしなかった。
問題が起きたのは彼らの注文が決まり私が呼び出された時、あろう事か私に絡み失礼な質問を繰り返すなど悪質な行為を始めたのだ。
最初は何処の学校に通ってるのか聞かれる程度だったが次第にエスカレートしていき「彼氏は居るの?」とか、「なんで男みたいな恰好してるの?ひょっとしてレズとか?」という具合で私の触れられたくない領域にずけずけと土足で踏み込んでくる。
彼らのセクハラはピークに達し「男知らないんでしょ?教えてあげようか?」と聞かれた瞬間自分の押さえつけていた理性が剥がれ落ちた。
私はただ痛いのに痛いと言わずに終わるのが嫌なんだ、こちらに非なんて無いのに自分の気持ちを押し殺して泣き寝入りなんて御免だ。
中学時代もいじめの対象になりそうだった時思いっきり反抗して怖がらせてやった、その分不良扱いされたがそれ以来多少の陰口を聞く程度で嫌がらせしてくる事も無くなった。
だからそいつらにもはっきり言ってやったんだ、「帰れ!お前らみたいな店員に欲情する下品な客に出す料理なんてない!」と。
その時は意外にも素直に帰っていく姿に多少の疑問を覚えた程度で、それがうかつだった。あの時気づいていれば…そう、言い返すのに夢中で気づかなかったが一連の流れは全てスマートフォン(恐らく)で録画されていたのだ。
動画はネット上にアップロードされ、しかも悪意のある形で編集され第三者から見れば私が一方的に怒っているように見える作りになっていた。
その動画は瞬く間に拡散され、目を覆いたくなるような私への罵詈雑言が飛び交う。バイトテロだ、速攻クビにしろ、その他口にするのもためらう差別的な言葉が心をえぐる。
追い打ちをかけるかのようにその映像はテレビ番組で取り上げられ問題視され、挙句の果てに本名まで特定され才賀かもめの悪評はとどまる事を知らず全国に知れ渡ることになってしまう。
結果として私は職場を解雇された、事情は出来るだけ説明したが悪評が知れ渡ってしまった以上店の評判に繋がるとの一点張りで聞く耳を持ってはくれず…
全てが終わった、この年にして人生のどん底に手を付いてしまった。
もうこの現状を打破するには自分が才賀かもめでなくなるしかない、物語のようにどこか知らない別世界に飛ばされるとか…
でもそんな事願ったってあるはずがない。
失意に打ちひしがれる私のもとに、それは突然不意に一筋の光となって迷い込んできた。「アルルカン」という形で。
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