第2話 巫女の治癒術
「ここで寝かせて下さい。」
美羽は、小太郎を拝殿内の中心に下ろしてもらい、
「少し待ってて下さい。」
と、言うと、自分の部屋へと向かいました。
美羽は、巫女の装飾に着替えると、鏡台の引き出しの中から、小さな木箱を取り出しました。
中を開けると、白い数珠の腕輪が入っています。
(これがあると、安心するのよね。)
この腕輪は、美羽がお守り代わりとして、大切に持っている物です。幼い頃に、病で亡くなってしまった母親の形見でもあります。
美羽は、それを祈るように握りしめ、額に近づけると、目を閉じました。
(母様、どうか、力を貸して下さい。)
美羽は、腕輪を身に付けると、急いで小太郎達の元へと走って行きました。
「お待たせしました。それでは、始めます。」
美羽は、小太郎の傷に向けて、両手をかざしました。
「治癒の神よ。この者に移りし穢れを、お祓い下さい。」
美羽がそう唱えると、美羽の両手から、緑色の光が現れ、小太郎の傷口に吸い込まれていきました。
そして、あの深々とした傷が、みるみるうちに塞がっていき、完治しました。
先程まで苦しんでいた小太郎は、表情が穏やかになると、何事も無かったかの様に、スッと立ち上がりました。
「お、お前!何ともないのか?」
と、もう一人の男性が目を丸くしながら、小太郎を見上げました。
「ああ。死にそうなぐらい痛かったのが嘘のようだ。巫女様のおかげだよ!ありがとうございます、巫女様。」
小太郎が、そう言い、美羽にお辞儀をすると、もう一人の男性も、一緒にお辞儀をしました。
「ありがとうございました、巫女様!」
美羽は、ほっとした後、2人に微笑みました。
「無事に救えて何よりです!」
2人の男性は、しばらくして、帰って行きました。
美羽は、2人が見えなくなるまで見送った後、考え込みました。
(最近、妖怪が以前より活発になってきたような……、気のせいかな?)
そして、白い数珠の腕輪に、そっと手で触れ、目を閉じると祈りました。
(どうか、みんなをお守り下さい。)
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「いただきまーす!」
その日の夜、仕事を終えた美羽は、元気良く挨拶すると、夕食を勢い良く食べ始めました。
「ん〜!美味しい!」
そして、あっという間に平らげてしまいました。
「ご馳走様でした!さてと、洗わなきゃ。」
美羽は、幼い頃、母が病死した後は、兄と暮らしていましたが、今は1人暮らしです。
そのため、時々寂しく感じることはあります。
(本当は、誰かの家にお世話になりたいけど、ここを離れるわけにはいかないのよね。)
美羽は、この神社の神主です。よっぽどの事がない限り、長く離れられません。
(まあ、しょうがないよね……。父様も母様も亡くなっているんだし。)
美羽は、そう思うと、深いため息を吐きました。
美羽の父親は、美羽が産まれたばかりの頃に亡くなっています。
父が元陰陽師であった事以外は、何も知りません。
(どんな人だったのかな。)
美羽は、見たことない父親の顔と性格を想像しながら、洗い物をしました。
*****
「……匂う。やはり、この辺りか。」
時を同じくして、神社周辺の森の中で、人ならざる者が、森の影の中で、ニタリと、不気味な笑みを浮かべていました。
「……ようやく見つけたぞ。暁の狐。」
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