銀狐と暁の巫女

優李

 序章・桜坂美羽の日常

第1話桜坂美羽

 時は江戸。京の都は、今日も沢山の人で賑わっています。


 その中に一人、団子屋の前でウロウロしている、花柄の桃色の着物を着た、黒髪の少女がいました。


「お団子はまだかな?お腹空いたーー。」


 どうやら、少女は、団子を注文していたようです。しばらくすると、団子を片手に、赤い前掛けを着けた、おば様が店から出てきました。

 

「はいよ、御待ち遠様!みたらしだよ。」

 

 にっこりと微笑みながら、少女に団子を渡しました。


「わーい!いただきまーす!」


 少女は幸せそうな顔をしながら、あっという間に団子を平らげました。


「ごちそうさまでした!やっぱり杏おばさんのお団子は美味しいね!」


「そうかい?美羽ちゃんは相変わらず美味しそうに食べてくれるから、嬉しいねーー!」


 少女──、桜坂美羽は、嬉しそうに微笑みました。


「じゃあ、また食べに来るね!」


 美羽は、手を振りながら走って行きました。


 杏おばさんも、その後ろ姿が見えなくなるまで、手を振り続けてくれました。


         ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「ふ〜、帰ってきた!」


 ここは、都の中心から少し離れた場所にある『桜坂神社』で、美羽の家です。


 実は、美羽は巫女なのです。


 質素で小さなお社ですが、周りは沢山の御神木に囲まれて、空気がおいしく、のどかな場所です。


「あれ?誰かいる……。」


 本殿の前に、二人の男性がいました。一人は苦しそうにうずくまっています。


 美羽は、急いで二人の元に駆けつけました。


「どうかされたのですか!?」


 うずくまっていない方の男性は、切迫詰まった表情で、美羽を見ました。     


「あなたは!?」

「私は、この神社の巫女です!」


 男性は、はっとすると、美羽に頭を下げました。


「巫女様!助けて下さい!友人の小太郎が、妖怪に襲われて!」


「ううっ……!腕が……!」


 小太郎と呼ばれている男性は、うめき声を上げながら、右腕を押さえています。


「これは、ひどい……!」


 右腕には、動物のものとは思えないほど、深く抉られた様な傷があり、ひどい出血でした。


「巫女様、小太郎は、助かりますか?」


 (これは……、妖怪にやられたのね。でも、まだ間に合う!)


 この時代には、妖怪が存在しており、小太郎の様に、凶暴な妖怪に襲われる人もいます。


 美羽は、うなずくと、


「まだ、間に合います!急いで治癒術の準備をしますので、この方を運んで下さい!」


 と、言うと、大急ぎで神社の中へと入っていきました。

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