第1622話 チトンチシャ
粗方治療を終えたら逃げ出してきたヤツに今の状況を教えてもらった。
なんでもチトンチシャと言う、ここを統治する者が外に逃げる者を排除することを命じたそうだ。
「チトンチシャってのは王と違うのかい?」
王女がいるなら王国制なんだろうが、どうも聞いていると違うっぽい。宗教のトップとかミチコみたいな存在か?
「我らを導く神です」
神と来たか。じゃあ、チトンチシャ神ってことになるのか?
「べー様。この方たち、カバ美さんを見る目、ちょっとおかしくないですか? なにか恐れているような感じですよ」
それはオレも気づいていた。ここにはカバ美みたいなのがいるのか? 恐れられる存在として?
「なあ、このカバ美みたいなのがここにいるのか?」
あれこれ考えるより思い切って尋ねてみた。
「……チトンチシャの子……」
その答えに益々わからなくなった。子? カバ美はチトンチシャから産まれたってことか?
「レイコさん、わかる?」
「いえ、さっぱりです。ですが、チトンチシャとの繋がりはあると思いますよ。リリーさん──カバ子さんが生まれた地にはその昔人魚の都市があったとご主人様が言ってましたから」
宇宙から来たとなれば地上に降りたときにバラけたってことか。海に根づいた者、湖に根づいた者、移住船で生き続けた者と、な。
「魚人も宇宙から来たとなれば、かなりの数になるな」
てか、もしかして、カバ美やカバ子って魚人? いや、カバは哺乳類か。いやいや、宇宙から来た生命体なら卵を産んでも不思議じゃねーか。なんか考えると頭痛くなってくんな……。
「あの灯りを辿って王女さまんところにいきな。兵士はこちらでなんとかするからよ」
「あ、ありがとうございます」
そう礼を言って五十人くらいの集団が地上に向かって泳ぎ出した。
「よし。公爵どの。レディ・カレット。兵士たちを剥ぐぞ」
「お前は追剥か」
「強かに生きる村人だよ。それに、こいつらはこちらを殺しにきた。なら、勝ったオレらには勝者の権利が与えられる。すなわち、こいつのものはオレらのもの。まったく問題ナッシングよ」
「さりげなくおれらを同罪にすんじゃねーよ」
「人魚たちが別と理解してくれたらイイな」
一緒にいる時点でオレらは同類であり同罪でもあるんだよ。
「ほら、もらえるうちにもらっちまうぞ」
兵士たちから身ぐるみ剥ぎ、無限鞄へとボッシュート。ありがとうございました~。
「よし。扉を潜るぞ」
そちらにも捕縛した兵士がいるそうだからな。
四トントラックが出入りでそうな扉を潜ると、そこは緑が生い茂っていた。
「水の中で育つ木とかファンタジーだな」
いや、地上も大概ファンタジーだけどね!
「べー様。サンプルとして持って帰りましょう」
「言われるまでもねーさ」
こんな珍しいのを採取しないなんてあり得ねー。根こそぎ──は無理でも十種類は持ち帰りてー。
あらよっと、ほらよっと、ハイ、十五種類は根っこからいただきました~。
「べー様、欲張りすぎですよ。なにか凶悪そうなものが出てきましたよ」
レイコさんが指差す方向にオットセイみたいなものが群れでいた。
「エラがあんな」
こいつも哺乳類っぽいが、呼吸で生きてる感じはしねー。こいつも元の星から連れられてきたんだろうか?
「肉食っぽいが、人魚の家畜だろうか?」
食料がなければ生きられねー。自給自足できる環境じゃねーとダメだ。なら、家畜がいても不思議じゃねーだろうよ。
「あれもいただいておくか」
人魚が食っていたなら海の人魚も食えるはず。増やせば人魚の食料となるだろうよ。
「……お前が侵略者より酷い存在に見えるよ……」
おいおい。それこそ酷いな。オレは人魚のためにやってんだぜ。私利私欲なんて三割もねーぜ。
「いや、確実に私利私欲で動いてますよね?」
ふっ。認めるしかねーか。ハイ、私利私欲でーす!
「一匹残らずいただきまーす!」
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